拓跋氏

鮮卑拓跋部を率いた拓跋氏：北魏建国とその後の歴史

拓跋氏は、中国北部からモンゴル高原にかけて強大な勢力を誇った鮮卑拓跋部の中核をなす氏族です。特に、拓跋鄰の直系は鮮卑を統一し、華北に北魏を建国しました。北魏では、第5代皇帝である献文帝まで国姓として用いられましたが、孝文帝の時代に漢化政策の一環として元氏へと改姓されました。

拓跋氏の興隆

鮮卑は元来、匈奴の支配下にありましたが、独立後に匈奴を北へと追いやりました。その後、檀石槐という傑物が現れ、鮮卑の諸部族をまとめ上げましたが、彼の死後、部族間の争いが激化しました。その中で力をつけたのが拓跋部であり、その中心氏族である拓跋氏が華北を統一し、北魏を建国するに至りました。

鮮卑の大人（部族長）の家系は必ずしも安定しておらず、世襲が常態化していたわけではありません。しかし、後漢末期頃から部族内で首長の地位が世襲される傾向が見られるようになりました。拓跋氏は複数の家系から構成されており、その中でも特に有力な10の家系は、百代を経ても互いに婚姻関係を結ばないという掟がありました。また、一族内での婚姻を避け、他の部族との婚姻を原則とする族外婚を重視していました。

拓跋氏が歴史の表舞台に登場するのは、3世紀後半に鮮卑の大人となった拓跋力微の時代からです。その孫である拓跋猗盧は、西晋に協力して匈奴の劉淵との戦いで大きな功績を挙げ、大単于の称号と代公の爵位を授けられ、陰山地方に領地を得ました。さらに、万里の長城の内側にあたる地域の割譲を要求し、これに成功しました。しかし、拓跋猗盧は息子の拓跋六脩によって暗殺され、その後は甥の拓跋鬱律が地位を継承しました。

混乱と再興、そして北魏建国へ

その後も拓跋氏の内部抗争は続き、拓跋鬱律は伯父の拓跋猗㐌の妻である惟氏に殺害され、その子の拓跋什翼犍や孫の拓跋寔が反乱によって命を落とすなど、単于の地位は不安定な状況が続きました。その結果、拓跋氏の国家である代は、前秦の苻堅による侵攻を受け、一時的に滅亡の危機に瀕しました。

しかし、拓跋寔の子である拓跋珪が旧臣を糾合し、代王として復興を遂げ、盛楽を王都として再独立を果たしました。さらに、漠北の柔然を打ち破るなど勢力を拡大し、ついには匈奴鉄弗部を滅ぼし、華北・山西を中心とする北魏を建国するに至りました。拓跋氏は、北魏の第5代皇帝である献文帝まで拓跋を国姓としていましたが、第6代皇帝の孝文帝は、さらなる漢化政策を推し進めるため、元氏へと改姓しました。

北魏の分裂とその後

北魏の分裂後、中国を再統一した隋・唐王朝も、拓跋部出身の貴族である楊氏・李氏によって建てられたという説があります。中央アジアの民族からは「タブガチ」（「拓跋」の転訛）と呼ばれていたことが、古代テュルク文字の碑文によって確認されています。ただし、楊氏・李氏自身は漢人出身を主張しており、この出自を巡る論争は唐の太宗李世民の時代にまで遡ります。

また、後に西夏を建国したチベット系タングートの首長一家も拓跋氏を称していましたが、拓跋部との直接的な関係は薄く、拓跋部の名声にあやかったものと考えられています。

参考文献

江上波夫　『騎馬民族国家』　中央公論社、1967年。

関連項目

鮮卑
* 拓跋部

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