悪名 (1961年の映画)

悪名

『悪名』は、1961年9月30日に封切られた大映製作の任侠映画です。田中徳三が監督を務め、勝新太郎と田宮二郎が主演を務めた「悪名シリーズ」の記念すべき第1作となります。カラー、シネマスコープ（2.35:1）で撮影され、約94分の上映時間でした。英語題は『Tough Guy』です。

この作品は、当時まだスターダムに駆け上がっていなかった勝新太郎にとって、初の本格的なヒット作となりました。また、共演の田宮二郎にとっても、その名を広く知らしめる重要な機会となりました。本作の大成功を受け、大映は立て続けに続編を製作し、「悪名シリーズ」は日本の任侠映画を代表する人気シリーズへと成長していきます。

あらすじ

物語は、河内地方の貧しい農家に生まれた青年、朝吉の姿から始まります。閉塞感のある故郷で夢を見つけられず、無為な日々を送っていた朝吉は、やがて故郷を離れ、当てのない旅に出ます。

放浪の末、ある遊女屋のある街にたどり着いた朝吉は、博徒のモートルの貞らとのトラブルをきっかけに、その親分である吉岡一家に迎え入れられます。次第に博徒として頭角を現していく朝吉は、遊女の琴糸と心を通わせるようになります。

琴糸の過酷な境遇に心を痛めた朝吉は、彼女を救い出そうとしますが、思いがけない事実が判明します。琴糸が、吉岡が恐れる有力者、松島の長五郎の身内だったのです。また、朝吉は琴糸を匿った際に世話になった食堂の女店員、お絹とも親密になり、お絹から夫婦の約束として起請文を書かされてしまいます。

松島一家との衝突を避けようとする吉岡の態度に反発したモートルの貞は、朝吉と共に一家を抜けます。二人は兄弟盃を交わし、新たな道を歩むことを誓います。

一方、松島一家は吉岡を襲撃して再起不能に追い込み、行方不明になっていた琴糸を探し出し、因島の女侠客、麻生イトに売り飛ばします。朝吉と貞は、琴糸を助けるため、有馬温泉での賭場で旅費を稼ぎ、因島へと向かいます。

因島に到着した二人は、遊女たちが外出を許される祭りの日を利用して琴糸を連れ出し、船に乗せますが、潮の流れに阻まれ、もとの港に押し戻されてしまいます。隠れ潜んだ旅館で、因島のもう一人の大物、シルクハットの親分とその子分たちに踏み込まれますが、そこに麻生イトが現れ、その場を収めます。イトは朝吉とシルクハット一家の手打ちを行い、琴糸の事情を理解して一時的な帰郷を許しますが、一週間後には必ず因島へ帰すよう厳命します。

一時帰郷した琴糸は、お絹と再会し、朝吉とお絹が婚約していることを知って深い悲しみに暮れますが、身を引くことを決意し、単身東京へと旅立ちます。

約束の期日が迫る中、朝吉は一人因島へ戻ります。約束を破られたイトは激怒し、朝吉を砂浜に連れ出してステッキで容赦なく殴打します。しかし、朝吉はただひたすらその暴力に耐え抜きます。朝吉の頑なさに根負けしたイトは、「私の負けや。あんたは男として名を上げる」と告げ、砂浜を去ります。血まみれになった朝吉は、「名を上げる？どうせそれは悪名やないか」とつぶやき、映画は幕を閉じます。

キャストとスタッフ

本作には、主人公・朝吉を演じた勝新太郎、その相棒となるモートルの貞を演じた田宮二郎をはじめ、お絹役の中村玉緒、琴糸役の水谷良重、そして強烈な個性を放つ女親分・麻生イト役の浪花千栄子など、個性豊かな俳優陣が出演しています。

監督は田中徳三。原作は今東光の同名小説（週刊朝日連載）に基づき、脚本を依田義賢、撮影を宮川一夫、音楽を鏑木創が担当するなど、大映の才能が集結して製作されました。

『悪名』は、アウトローとして己の道を突き進む主人公の姿を通して、当時の社会の底辺に生きる人々の哀歓や人間関係を描き出し、その後の任侠映画の流れを決定づけた、日本の映画史においても重要な一作と言えるでしょう。

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