惟明親王

惟明親王：皇位継承の波に翻弄された歌人皇族

惟明親王（これあきしんのう）は、平安時代末期から鎌倉時代前期にかけて生きた皇族です。高倉天皇の第三皇子として生まれ、母は内裏の女房であった少将局（平義範の娘）でした。その出自から皇位継承争いに巻き込まれ、不遇な生涯を送りましたが、和歌においては才能を発揮し、後世に名を残しています。

皇位継承争いと不遇の時代

治承3年（1179年）に生まれた惟明親王は、異母兄である安徳天皇が平家と共に都落ちした際、皇位継承の有力候補となりました。しかし、最終的には異母弟である尊成親王（後鳥羽天皇）が皇位を継承。この背景には、母である少将局の身分の低さや、外祖父である平信業の死による後ろ盾の喪失があったとされています。

『平家物語』には、後白河法皇が皇嗣を決める際、惟明親王が法皇を嫌がったことが理由であるという逸話が残されていますが、史実とは考えにくいでしょう。むしろ、後鳥羽天皇が幼少であったため、皇位継承候補として留め置かれたものの、後鳥羽天皇が成長し、皇子をもうけるようになると、その存在は警戒されるようになったと考えられます。

文治5年（1189年）に親王宣下を受け、建久6年（1195年）には後鳥羽天皇の生母である七条院の猶子となり元服。三品に叙せられます。しかし、承元4年（1210年）に後鳥羽天皇の皇子である順徳天皇が即位すると、皇位継承の望みが絶たれたことを悟り、翌承元5年（1211年）に出家。聖円入道親王と名乗ります。これは、後鳥羽天皇による政治的圧力があったとする見方もあり、皇位継承権を持つ異母兄の存在が疎まれた結果とも考えられます。

承久3年（1221年）の承久の乱直前に、惟明親王は43歳で薨去しました。

承久の乱後の影響

惟明親王の死後、承久の乱が勃発。鎌倉幕府は後鳥羽上皇を配流し、仲恭天皇を廃位。新たな天皇として、後鳥羽上皇の子孫以外の皇族を立てる方針を打ち出しました。この時、惟明親王の末子である国尊王も候補者となりましたが、父である惟明親王が既に亡くなっていたため、院政を行う治天の君を得られないと判断され、守貞親王の子である後堀河天皇が即位することとなりました。わずかな時期の差が、子孫の運命を大きく分ける結果となったのです。

歌人としての才能

惟明親王は、和歌に優れた才能を発揮し、式子内親王や藤原定家など、当代随一の歌人とも親交がありました。『新古今和歌集』には6首が収録されているのをはじめ、以降の勅撰和歌集にも33首が収められています。その歌は、繊細で情感豊かであり、当時の歌壇においても高い評価を受けていました。

系譜

父：高倉天皇
母：平範子（少将局） - 平義範の娘
妻：藤原公時の娘
妻：源通資の娘
妻：白河染殿僧都の娘
男子：尊雲 - 法印大阿闍梨
男子：聖海 - 醍醐寺座主
男子：国尊王（交野宮、片野宮、雲林宮麿尊王） - 大智院
孫：醍醐宮（大豊王） - 国尊王の子
孫：栗野宮（宇明王） - 国尊王の子
玄孫：高桑宮 - 醍醐宮の子
玄孫：尾崎宮 - 醍醐宮の子
* 玄孫：万寿（万寿宮） - 醍醐宮の子

惟明親王は、皇位継承争いに翻弄されながらも、和歌の世界で独自の足跡を残しました。その生涯は、時代の波に翻弄された皇族の悲哀と、芸術に生きた才能の輝きを今に伝えています。

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