慈延

慈延（じえん）

慈延は、寛延元年（1748年）に信濃国（現在の長野県）に生まれ、文化2年7月8日（1805年8月2日）に58歳で生涯を終えた、江戸時代中期から後期にかけての天台宗の僧であり、歌人です。父は儒医であり漢学者でもあった塚田旭嶺で、室鳩巣の門下でした。兄は尾張藩の明倫堂で督学（校長）を務め、「寛政の五鬼」と称された儒学者・冢田大峯です。慈延は字を大愚、号を吐屑庵と称しました。

生い立ちと出家

慈延は、信濃国水内郡長野村桜小路（現在の長野県長野市桜枝町）で五男として誕生しました。幼少の頃から、父から儒学を、母からは和歌の手ほどきを受けました。特に母の千賀子が育った松代は、賀茂眞淵の門人である大村光枝が来てから和歌が盛んになり、「松の百枝」という百人一首が作られるほどでした。こうした環境で育ったことが、慈延の歌人としての才能を育む基盤となりました。

成長した慈延は、比叡山に登り天台宗の教理を学び、僧侶となって延暦寺の一門である円教院の住職となりました。しかし、幼い頃から親しんでいた和歌への情熱は消えることがなく、冷泉為村に師事して歌道に励むことになります。そして、和歌に専念するため、京都の洛東岡崎にある明真寺に隠棲しました。

歌人としての活躍

歌人としての慈延は、小沢蘆庵、澄月、伴蒿蹊とともに平安和歌四天王の一人に数えられました。橘南渓の『北窓瑣談』では、慈延が歌学と儒学に通じ、その学識が非常に優れていると高く評価され、「新しく・面白くよみて、歌学に漢学を兼備へて、実にこの道の宗匠なり」と記されています。この評価からも、慈延が単なる歌人ではなく、学識豊かな人物であったことが伺えます。

晩年と死

文化2年（1805年）、慈延は58歳でこの世を去り、京都岡崎の明真寺に葬られました。彼の墓には、経石を奉納した法華塔が建てられています。

主な著作

慈延は多くの著作を残しており、主なものとして以下が挙げられます。

『三槐和歌類』
『隣女晤言』
『慈延和歌聞書』
『廿一代集概覧』
『堀川院初度百首抄』

これらの著作は、慈延の歌人としての活動や、和歌に対する深い理解を示す貴重な資料となっています。

まとめ

慈延は、僧侶でありながら優れた歌人として活躍した人物です。儒学と和歌の両方に通じ、その才能と学識は多くの人々に認められました。彼の作品は、現代においても和歌の研究において重要な資料とされています。


参考文献
『長野県史 通史編 第6巻 近世3』
* 『塚田家の系譜』ツカダ鞄店、1996年10月20日、49頁。

もう一度検索