慶長通宝

慶長通宝（けいちょうつうほう）は、慶長11年（1606年）に江戸幕府によって発行されたとされる銅銭です。ただし、この説には異論もあり、中央政府による貨幣鋳造としては、平安時代の皇朝十二銭以来の出来事とされています。銭文は「慶長通寳」と刻まれています。

概要

慶長通宝には、大きく分けて2つの系統が存在します。一つは大形で文字も整っており、比較的良質なものです。もう一つは小型で質が劣悪で、永樂通寳から「永樂」を削除し、「慶長」を嵌め込んだ変造鋳型を用いたと思われる私鋳銭です。前者は主に江戸や京都周辺で、後者は九州地方で多く使用されていました。

興味深いことに、堺市の環濠遺跡からは、宋銭、明銭、琉球貨幣に混じって66枚の慶長通宝が出土しています。これにより、慶長元年（1596年）から2年（1597年）頃にかけて、大坂や堺で鐚銭の鋳造が盛んだったという説も存在します。また、東京都奥多摩町の日原鍾乳洞からも30枚が発見されています。

当時の鋳造記録がほとんど残っていないため、江戸幕府による鋳造を否定する説もあります。しかし、慶長13年（1608年）に永楽通宝の使用を禁止する法令が幕府から出されていることから、永楽通宝に代わる銅銭が存在したと考えるのが妥当です。翌年には、金1両 = 銀50匁 = 永楽通宝1貫文 = 「京銭（きんせん）」4貫文という交換比率が定められており、この「京銭」が慶長通宝である可能性が指摘されています。ただし、京銭については、私鋳された宋銭や無文銭が銭不足のため、4枚で永楽銭1文相当として扱われていたという説もあります。

また、永楽銭が流通していた関東地方で、銭貨を京銭に統一するために、同価値の慶長通宝が鋳造されたとも考えられます。永楽通宝の使用禁止令が出されたものの、慶長通宝の鋳造量が不足し、永楽通宝を完全に代替できなかったため、この禁令は永楽通宝の永勘定（金1両 = 永1貫文）としての優位的使用を禁止するものに留まったという説もあります。一方で、この時代には既に永楽通宝は計算貨幣化しており、日常の取引では京銭4枚を永楽銭1文扱いしていたという説もあります。

仮に江戸幕府が発行したとしても、当時の幕府は成立間もなく、大坂は豊臣氏が支配しており、全国経済の把握も不十分でした。さらに、悪質な私鋳銭も流通したため、慶長通宝は全国的な流通には至らなかったと考えられます。江戸幕府が全国的な貨幣統一を確立するのは、豊臣氏が滅亡し、全国支配を確立した後の寛永通寳の発行を待つことになります。

参考文献

（参考文献は省略）

関連項目

鐚銭
私鋳銭
永樂通寳
* 寛永通寳

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