承和の変

承和の変とは

承和の変（じょうわのへん）は、平安時代初期の842年（承和9年）に発生した、廃太子を伴う政変である。この事件は、藤原氏による他氏排斥の初例と位置付けられ、平安時代の政局に大きな影響を与えることになる。

背景

823年、嵯峨天皇は譲位し、弟の淳和天皇が即位した。ついで、833年には仁明天皇がその皇位を継承する。仁明天皇の皇太子には淳和上皇の皇子である恒貞親王が任命され、政治は安定していた。この時期、藤原北家の藤原良房は嵯峨上皇と皇太后橘嘉智子の信任を得て急速に権力を増していた。

良房の妹が仁明天皇の中宮となったことで、良房はその子道康親王の皇位継承を期待していた。これに対して、恒貞親王と淳和上皇は皇太子の辞退を何度も求めたが、嵯峨上皇は常に慰留していた。

事件の発展

840年、淳和上皇が崩御。その後、842年7月、嵯峨上皇が病に伏せる中、皇太子の身に危機が迫るとの不安が生まれた。皇太子に仕える春宮坊の伴健岑と橘逸勢は皇太子を東国へ避難させる計画を立てたが、これが皇太后に知られ、さらに良房に上告された。

7月15日、嵯峨上皇が崩御した2日後、仁明天皇は伴健岑らを逮捕し、皇太子の保護を命じた。皇太子は一時慰留されるも、23日には事態が急変し、良房の弟が近衛府の兵を率いて皇太子の住居を包囲した。仁明天皇は伴健岑たちを謀反人と断じ、恒貞親王を廃した。これにより、藤原愛発や藤原吉野もそれぞれ左遷され、伴健岑や橘逸勢も処罰された。

事件の影響

この政変を経て、藤原良房は大納言に昇進し、道康親王が皇太子に立てられた。承和の変は、藤原氏による他氏排斥事件の始まりとされ、良房の望みにより道康親王の皇位継承が実現した結果、名族伴氏や橘氏に打撃を与え、藤原氏内の競争相手であった藤原愛発と藤原吉野も失脚することとなる。

さらに、承和の変は、桓武天皇の遺志にも通じる重要な事件であり、兄弟王朝の確立から嵯峨－仁明－文徳の直系王統の成立につながった。良房はこの事件を契機に権力を確立し、その後、摂政・太政大臣の地位まで上り詰め、藤原氏の繁栄の基礎を築くこととなる。

研究の進展と現在の見解

1990年代には、橘逸勢と伴健岑の計画が実際にあったのか否か、意見が分かれていたが、良房の陰謀として通説となっていた。しかし、彼の当時の政治的地位を考えると、単独での陰謀は難しいという指摘が増え、現在では良房を中心にした藤原北家と他の家系との対立による計画であったと考えられるようになっている。また、当時の宮廷を取り巻く関係者の複雑な人間関係が影響していることも強調されている。

承和の変は、平安時代の政治史において大きな転機となる出来事であり、その後の政局にも影響を与え続けたことは間違いない。

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