藤原吉野

藤原吉野（ふじわら の よしの）は、平安時代初期に活躍した公卿であり、藤原式家の出身です。参議・藤原綱継の長男として生まれました。官位は正三位・中納言にまで昇り、その生涯を淳和天皇のために尽くしました。

経歴

吉野は、式家出身の母を持つ淳和天皇と同年齢であり、幼少の頃から親しくしていました。天皇の乳母子であったという説もあります。若くして大学で学び、嵯峨天皇の時代には主蔵正、次いで春宮少進として、当時皇太子であった大伴親王（後の淳和天皇）に仕えました。弘仁10年（819年）には従五位下・駿河守に任じられ、国司として優れた治績を上げ、その才能を世に示しました。

淳和天皇が即位すると、吉野は都に呼び戻され、天皇の側近として左近衛少将・左少弁を歴任しました。天長3年（826年）には蔵人頭となり、天皇の政務を補佐しました。この間、天長元年（824年）に従五位上、天長3年（826年）に正五位下、天長4年（827年）には従四位下へと急速に昇進を遂げました。天長5年（828年）には参議として公卿に列し、天長9年（832年）には従三位・権中納言に叙任され、右近衛大将・春宮大夫も兼任しました。

淳和天皇から仁明天皇への譲位後も、吉野は淳和上皇の傍に仕えました。承和7年（840年）に淳和上皇が危篤となり、「自分の遺骨は山から散骨せよ」と遺言すると、吉野はそれに反対しましたが、上皇が崩御すると、その遺言を実行しました。その後、上皇の子である皇太子・恒貞親王のために尽くすことを決意し、1年間出仕せず、何度も辞職を願い出ましたが、仁明天皇の慰留により、中納言の地位に留まりました。

しかし、承和9年（842年）7月に嵯峨上皇が崩御した後、恒貞親王や吉野らは謀反の疑いをかけられ、恒貞親王は廃太子とされ、吉野は大宰員外帥に左遷されました（承和の変）。さらに承和12年（845年）には大宰員外帥を解任され、山城国に移されましたが、入京は許されず、承和13年（846年）8月12日に失意のうちに病没しました。享年61歳。最終官位は散位正三位でした。

人物

吉野は、寛大で柔和な性格であり、包容力があったため、多くの人々から慕われていました。また、学問にも励み、常に書物を手放さず、目下の者からも積極的に教えを乞う一方で、師弟にも教え諭したと言われています。他人の過失を咎めることなく、議論する際にも法に反することを主張しませんでした。両親に孝養を尽くし、忠孝の道を共に励みました。住まいには樹木を植えることを好み、その様子は、竹を愛した東晋の文人・王徽之を彷彿とさせました。

逸話

吉野の孝行心を示す逸話として、以下のようなものがあります。

吉野が朝廷に出仕している間に、家にあった新鮮な肉を父・綱継が欲しがり、人を遣わせて求めたが、料理人が分け与えなかった。このことを後で聞いた吉野は、料理人を叱責し、涙を流して肉を口にしなくなったと言われています。

官歴

時期不詳：主蔵正
弘仁4年（813年）：美濃少掾
弘仁7年（816年）：春宮少進（春宮・大伴親王、のち淳和天皇）
時期不詳：正六位上
弘仁10年（819年）1月7日：従五位下、1月10日：駿河守
弘仁14年（823年）5月13日：中務少輔、9月16日：左近衛少将
天長元年（824年）1月7日：従五位上、5月21日：左少弁
天長2年（825年）：兼伊予守、畿内巡察使
天長3年（826年）1月21日：兼伊勢守、2月：蔵人頭、8月13日：正五位下
天長4年（827年）1月21日：従四位下、2月：皇后宮大夫、3月：右兵衛督
天長5年（828年）閏3月13日：右兵衛督、5月27日：参議
天長6年（829年）2月22日：式部大輔
天長7年（830年）5月5日：春宮大夫（春宮・正良親王、のち仁明天皇）、8月4日：正四位下、右近衛大将、大夫如元
天長9年（832年）1月11日：美作守、2月26日：伊予守、11月2日：従三位、権中納言
天長10年（833年）3月6日：正三位（仁明天皇即位）、3月15日：右近衛大将辞任（淳和天皇退位による）
承和元年（834年）2月5日：中納言
承和9年（842年）7月23日：大宰員外帥（承和の変）
承和12年（845年）3月25日：解大宰員外帥、遷配山城国
承和13年（846年）8月12日：薨去（散位正三位）

系譜

父：藤原綱継
母：藤原姉子（藤原蔵下麻呂の娘）
生母不詳の子女
男子：藤原近峯
男子：藤原真峯
三男：藤原近主
四男：藤原良近（823-875）
* 男子：藤原延命

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