押小路家 (中原氏)

押小路家：外記の世襲と歴史的貢献

押小路家は、中原氏という学者の名門一族の嫡流を継承する地下家です。特に、朝廷における事務官・書記官の最高位である局務を代々世襲することで知られています。室町時代後期、15世紀後半より押小路家を名乗るようになり、江戸時代には76石の家禄を有していました。

押小路家のルーツは、10世紀の明経博士、中原有象にまで遡ります。中原氏は明経道（儒学）を家学とする家系として知られており、押小路家は、その嫡流にあたります。平安時代中期からは、広澄流清原氏嫡流と共に、明経博士と局務の地位を世襲していました。しかし、室町時代になると清原氏が公卿の地位を獲得し、明経博士の地位は清原氏嫡流と庶流が独占するようになります。

その結果、押小路家は明経博士の地位を失うものの、代わりに江戸時代には局務を単独で世襲するようになりました。時を経るにつれ、押小路家と局務はほぼ同義語のように扱われるようになり、家名と職務が完全に一体化していったのです。

押小路家の特異な点は、局務の他に、造酒正、大炊頭、掃部頭、穀倉院別当などの要職を兼任していたことです。地下家でありながら、従三位に叙せられ公卿に列した者もおり、その影響力は朝廷内において無視できないものでした。そのため、小槻氏嫡流の壬生家と共に、地下官人の棟梁として称えられたのです。さらに、中原氏の庶流である平田家を加えた三家（押小路家、壬生家、平田家）を「三催（さんもよおし）」と呼び、朝廷の儀式や公事において重要な役割を担っていました。

押小路家の歴史において特筆すべき人物として、第12代当主・師武の養女である甫子（なみこ）が挙げられます。甫子は孝明天皇の乳母、そして大御乳人（命婦の次席）を務めた人物であり、『大御乳人甫子記』や『大御乳人甫子雑記』といった貴重な日記や随筆を残しています。これらの記録は、当時の宮廷事情を知る上で非常に貴重な史料となっています。

明治維新後、押小路家は華族に列し、師成が男爵に叙せられました。師成は、押小路家が長年にわたり蓄積してきた膨大な文書類を内閣文庫などに寄贈しました。これらの文書は『押小路文書』としてまとめられ、朝廷の公事記録や日記類、さらには酒屋や米屋などの寮役料足に関する記録など、多岐にわたる貴重な情報が含まれています。これらの寄贈は、日本の歴史研究に大きく貢献しました。現在も宮内庁書陵部や東京大学史料編纂所、国立国会図書館などに押小路家関連の文書が保存されており、歴史研究の重要な資料として活用されています。

押小路家の系譜は長く、分家として志水家と山口家が存在します。また、南北朝時代の『師守記』の著者として知られる中原師守も、押小路家を名乗ったことがあるとされていますが、これは同名別家です。

このように、押小路家は、外記の世襲という特異な地位、朝廷における影響力、そして後世に残された貴重な史料を通じて、日本の歴史に大きな足跡を残した家系と言えるでしょう。現在でも、その歴史的意義は高く評価されています。

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