拝借金

拝借金（はいしゃくきん）とは

拝借金とは、江戸幕府が財政支援のために、大名や旗本などの武士に対して無利子で貸与した金銭のことです。幕府による恩恵という位置づけから、恩貸（おんかし）とも呼ばれました。

概要

拝借金は、幕府が諸大名や旗本の財政を援助する目的で設けられた制度です。無利子で貸し付けられる点が特徴で、返済期限は設けられていたものの、状況に応じて延長や免除されることもありました。この制度は、幕府の権威を示すとともに、大名や旗本の忠誠心を維持する役割も果たしました。

記録

記録で確認できる最も古い例は、大坂冬の陣の際に、江戸城の普請（土木工事）と軍役という二重の負担を強いられた大名たちに配慮して支給されたものです。具体的には、加賀藩に3万両、仙台藩に1万5千両、西国の姫路藩、和歌山藩、佐賀藩には銀200貫目が貸与されました。

その後も、火災や水害などの災害を理由に、しばしば拝借金が貸与されました。特に、明暦の大火では、被災した大名家に対して、石高に応じて10年返済の拝借金が認められました。

貸与の例

拝借金が貸与される主な例としては、以下の様なものが挙げられます。

居城の罹災や領内の災害・凶作
勅使や朝鮮通信使への接待など、幕府の命令による御用遂行
転封（領地の移動）
幕府の役職就任（京都所司代や大坂城代、遠国奉行など）

また、御三家などの将軍家親族や、老中、若年寄、京都所司代の経験者など、幕府の要職にある者に対しては、貸与の基準が緩かったとされています。さらに、江戸時代後期には、旗本や御家人の生活困窮を救済する目的で拝借金が利用されたほか、寺社や宿場町、米価の維持のために、非武士にも貸与されることがありました（米価の場合は、札差や米問屋が対象）。

幕末

幕末になると、海防などの軍備増強や経済混乱に対する救済策としても、拝借金が利用されるようになりました。しかし、幕府自身の財政難から、拝借金の基準は厳しくなり、拠出が抑制されるようになりました。それでも、天保13年（1842年）末には、拝借金の残高が約12万両に達していました。

拝借金は、幕藩体制を維持するためには不可欠な措置であった一方で、幕府財政を悪化させる要因の一つにもなりました。

まとめ

拝借金は、江戸幕府が財政難に陥った大名や旗本を救済するために設けた制度であり、幕府の権威を示す重要な手段でした。しかし、幕府自身の財政悪化を招いた側面もあり、幕末にはその制度が維持できなくなるほど、財政を圧迫しました。

参考文献

* 飯島千秋「拝借金」（『国史大辞典 11』、吉川弘文館、1990年） ISBN 978-4-642-00511-1

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