拾ヶ堰

拾ヶ堰：安曇野を潤す生命線

安曇野市を流れる拾ヶ堰は、江戸時代に開削された全長約15kmに及ぶ大規模な灌漑用水路です。正式名称は拾ヶ村組合堰。奈良井川を水源とし、梓川を横断、烏川へと至るその姿は、安曇野の農業発展に欠かせない生命線として、人々の暮らしを長きに渡って支え続けてきました。

乏水地域と用水路開削の必要性

安曇野は扇状地特有の地形のため、地下水がしみ込みやすく、古くから農業用水が不足する地域でした。この課題を解決するため、柏原村、吉野村などの庄屋を中心に、大規模な用水路の建設が計画され、幾多の困難を乗り越え、拾ヶ堰の開削が始まりました。

開削までの道のり：幾多の努力と信念

1790年頃、等々力孫一郎が烏川扇状地への灌漑用水路開削の計画に着手。その後、中島輪兵衛らも同様の計画を進め、1806年には讃岐の金刀比羅宮に祈願するなど、開削への強い意志が感じられます。1812年には金比羅大権現を勧請し、岡村勘兵衛、白沢民右衛門らも計画に加わり、本格的な工事が始まりました。

1814年、松本藩に工事の計画書を提出。翌年、測量や杭打ちが行われ、1816年2月11日についに工事が着工。わずか約3ヶ月後の5月11日に竣工、7月3日には通水が完了しました。この偉業は、中島輪兵衛、平倉六郎右衛門、等々力孫一郎、岡村勘兵衛、白澤民右衛門ら多くの人々の献身的な努力と、安曇郡全域からの協力によって成し遂げられたものです。

拾ヶ堰の技術と特徴

拾ヶ堰は、標高570mの等高線に沿って流れる横堰（よこせぎ）であり、その傾斜はわずか約0.3パーミル。ゆっくりと流れる水は「押水（おしみず）」と呼ばれ、水田を効率的に潤しました。灌漑面積は約1000haに及び、木製の素朴な水準器を用いた精緻な測量が、その建設を支えました。

梓川との交差部分には、かつては横堀が用いられていましたが、度重なる水害により、大正時代にサイフォンが設置され、平成には現在のサイフォンが整備されています。

拾ヶ堰と安曇野の発展

拾ヶ堰の開削は、安曇野地域に大きな変化をもたらしました。18世紀から19世紀初頭、信濃地方の人口は停滞していましたが、安曇野では拾ヶ堰をはじめとする用水路の整備により、農業生産性が向上し、人口増加が続きました。また、1849年には拾ヶ堰通船が開通。松本と柏原村を結び、米穀や酒の輸送などに利用され、地域経済の発展にも貢献しました。

そして現在へ

2016年には、国際かんがい排水委員会の灌漑施設遺産に登録され、その歴史的価値が世界的に認められました。現在も、安曇野の農業を支える重要な役割を担い、疏水百選にも選ばれている拾ヶ堰は、人々の暮らしと深く結びついた貴重な歴史遺産です。その歴史と技術、そして安曇野への貢献を未来へと繋いでいくことが重要です。

関連情報

記念碑: 国道147号と交差する地点、松本市島内犬飼新田の2か所に記念碑があります。
参考文献: 北野進『安曇野と拾ヶ堰』、南[[安曇郡誌]] 第2編下巻、長野県拾ヶ堰土地改良区編「安曇野の拾ヶ堰ガイドブック」
* 関連施設: 疏水百選、長野県道441号穂高松本塩尻自転車道線（あづみ野やまびこ自転車道）

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