振鷺亭

振鷺亭について

振鷺亭（しんろてい、生年不明 - 文化12年11月23日〈1815年12月23日〉）は、江戸時代に活躍した戯作者および浮世絵師で、本名は猪狩貞居です。通称は与兵衛であり、他に浜町亭や関東米、丁子匂人といった別号も持ちます。彼の作品は洒落本や滑稽本、合巻など多岐にわたり、当時の文芸界においても高く評価されていました。

生い立ちと来歴

振鷺亭は江戸の久松町、現在の本船町に生まれ、元々は家主としての地位を持っていましたが、放蕩のためにその地位を離れ、浅草に移住しました。若い時期に著名な絵師・鳥居清長に絵の技術を学び、彼の洒落本の絵は多くが自ら手掛けたものです。草稿『針供養御事始』が現存しており、振鷺亭が絵師としての才能を持っていたことがうかがえます。

寛政元年（1789年）から戯作を執筆し始め、文化期にかけては40部以上の作品を発表しました。特に戯作の領域では、他の作家である山東京伝、曲亭馬琴とならび、その名を馳せていました。彼は洒落本を執筆する際、山東京伝に私淑していましたが、1791年の京伝の事件をきっかけに、中本型洒落本に新たな道を見出しました。

1804年には一時的に戯作の執筆を中断しますが、再び執筆活動を始めました。しかし、後の滑稽本や合巻は、あまり特徴的な作品とは言えず、特に滑稽本は十返舎一九の亜流として位置付けられることが多かったです。1810年頃には川崎大師河原塩浜に移り住み、手習いの師として生計を立てました。

1816年に発行された往来物『実語教童子教証註』は、彼のこの時期における重要な作品とされています。1819年頃には泥酔状態で堰に落ち、溺死したと伝えられています。振鷺亭の墓所は神奈川県川崎市の大徳寺にあるとされていますが、残念ながらその墓碑は現存していません。

人間関係と文化的影響

振鷺亭は独特な性格を持っていたようですが、森島中良や式亭三馬、五代目市川團十郎といった当時の著名な人物とも親交がありました。団十郎改名祝いの際には狂歌を捧げ、その際に彼から読本『本朝別女伝』の序文を受け取るといった交流がありました。

また、為永春水は「二代目振鷺亭主人」の名で合巻『十種香萩白露』に序文を寄せている他、滑稽本の序文にも「振鷺亭主人」と名乗るなど、2世振鷺亭としての肩書を用いていました。振鷺亭との師弟関係があったとされますが、詳しい経緯については謎に包まれています。

主な作品

振鷺亭の作品には以下のものが含まれます：

• - 洒落本

- 『自惚鏡』 - 寛政元年
- 『翁曾我』 - 寛政8年
- 『見通三世相』 - 寛政年間
- 『意妓口』 - 寛政11年

• - 噺本

- 『振鷺亭噺日記』 - 寛政3年序、文政6年刊行

• - 読本

- 『いろは酔故伝』 - 寛政6年
- 『一二草』 - 寛政7年
- 『春夏秋冬春之巻』 - 文化3年
- 『千代嚢媛七変化物語』 - 文化5年

• - 滑稽本

- 『今西行吾妻旅路』 - 文化10年

• - 合巻

- 『鰻谷歌舞伎筋書』 - 文化11年

振鷺亭はそのユニークな作品群を通じて、江戸時代の文芸に大きな足跡を残しました。

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