文民

文民（Civilian）

文民とは、一般的に軍人ではない人物を指す言葉です。元々は日本国憲法を制定する際に、英語の「civilian」の訳語として作られた言葉です。シビリアンは、警察、軍、消防の一員ではない者を指し、公共のために犯罪、災害、戦争などへの対処にあたらず、自分の命を危険にさらす業務に携わっていない人を意味します。

語源

英語の「civilian」は、14世紀後半の古フランス語「civilien」（市民の法の）に由来します。1829年には、非戦闘員を指す言葉として使われ始めました。日本では、日本国憲法制定時に「文民」という言葉が作られました。当時の日本語には「civilian」に対応する語がなく、貴族院の審議で「現在、軍人ではない者」に相当する語として、「文官」「地方人」「凡人」などが候補に挙がりましたが、「文官」では官僚主義的であるとされ、「文民」が選ばれました。

戦時国際法における位置づけ

赤十字国際委員会は、戦時における文民の保護に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約についての1958年のコメンタリーで、敵国の手の内にあるあらゆる者は国際法に基づき一定の待遇を与えられなければならないと述べています。また、文民が敵対行為に直接関与した場合、「不法な」あるいは「権利の無い」戦闘員と見なされ、留置された国における国内法で裁かれる可能性があるとの見解を示しています。

1977年のジュネーヴ諸条約第一追加議定書第五十条は、文民を一定の分類に属さない者と定義しています。これは、武装組織に属さず敵対行為を行わない者が文民であるという意味です。文民は武力紛争に関与することができない代わりに、ジュネーヴ諸条約および議定書の保護下に置かれます。第一追加議定書第三章では、文民に属するものを攻撃対象とすることを規制しており、1998年の国際刑事裁判所ローマ規程でも、文民に対する意図的な攻撃は戦争犯罪と定められています。

近現代の戦闘における文民

近現代戦における文民の地位は曖昧なままです。現代における戦闘の多くは内戦であり、戦時国際法の適用が難しく、戦闘員と文民の区別も維持しがたい状況があります。ゲリラ戦やテロリズムは、戦闘員が文民を巻き込むことを前提としている場合が多く、「効果ベース戦争」では、発電所など文民に属するものが攻撃対象となり得ます。また、人間の盾戦法がとられることもあります。

21世紀初頭、文民の法的位置づけは、メディアや国連において広く注目を集める議題となり、危機にさらされた住民を保護するという名目で軍事力の行使が正当化されました。文民は本質的に戦争の受動的な傍観者であると考えられていますが、時には戦闘の中で積極的な役割を負うこともあります。

国際人道法による文民の保護

国際人道法に属する諸条約では、調印国に国家間の戦争時における文民の保護を義務付けています。国際人道法では、区別、比例原則、緊急避難の原則が戦闘時の文民保護と結びついています。国際連合は文民保護のために軍事組織を配置していますが、その運用における公式な方針は定めていません。国連は文民の安全が大規模に脅かされることは国際的な平和と安定に対する脅威となることを認識しており、文民保護と地域的安定化の手段を構築しようとしています。

日本における文民の意味

日本国憲法第66条2項には、「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」と規定されています。ここでいう「文民」とは、旧陸海軍の職業軍人の経歴を有する者であって、軍国主義的思想に深く染まっていると考えられる者、および自衛官以外の者を指します。実質的には自衛官以外の者のみを指すといえます。

一般的な「文民」は、「一般市民」、「文官（一般公務員、警察官を含む）」、「戦闘員ではなく国際法上交戦権を持たない者」のニュアンスを持ちます。日本での文脈でいう「文民統制」とは、「軍人以外の人間」、具体的には「一般市民の代表である政治家」を指します。

過去には、野村吉三郎（元海軍大将）の入閣が「文民」規定の問題から断念されたり、永野茂門（元自衛官）が法務大臣に就任した際に問題視する意見が出たりしました。

日本において、文民統制とは、軍事的組織構成員には発言権がないこと、と一般的に理解されていますが、自衛隊は「軍」ではないとの建前から政軍関係に関する議論が乏しく、実態は、軍事的組織の予算、人事、そして行動につき、その「最終的な」命令権が、軍事的組織そのものにはなく政府や議会にあることが制度的に保障されている状態をいう、との理解にとどまっています。

もう一度検索