斎藤妙純

斎藤妙純（さいとうみょうじゅん）は、室町時代から戦国時代にかけて美濃国を拠点に活躍した武将です。諱を利国（としくに）といい、妙純は出家後の法名にあたります。通称は新四郎、あるいは右馬丞と称されました。

斎藤氏の一族である美濃守護代、斎藤利永の子として生まれましたが、叔父にあたる斎藤妙椿（みょうちん）の養子となり、妙椿が率いる斎藤氏の有力な家系である持是院家（じぜいんけ）を継承しました。妻は野間入道の娘（甘露寺親長の養女）で、後に利貞尼（りていに）と名乗っています。子には利親（としちか）、又四郎（またしろう）、彦四郎（ひこしろう）のほか、朝倉貞景（あさくらさだかげ）、京極高清（きょうごくたかきよ）に嫁いだ娘がいました。

持是院家継承と美濃の実権掌握

妙純の名が歴史上に現れるのは、応仁の乱の最中のことです。文明5年（1473年）10月、伊勢国で長野氏を救援するため、叔父妙椿とともに大将として伊勢へ出兵し、東軍方の梅戸城（うめどじょう）を攻略しました。

文明12年（1480年）2月に養父妙椿が死去すると、妙純は持是院家を継承します。妙椿は生前、美濃守護である土岐成頼（ときしげより）に対し、妙純を重用するよう遺言したと伝わっており、成頼もこれに従いました。

同年5月には、応仁の乱の際に妙椿が横領した荘園の扱いを巡り、斎藤氏の惣領家当主で守護代の地位にあった異母兄の斎藤利藤（さいとうとしふじ）との間に争いが生じます。成頼が妙椿の遺言を尊重し、妙純を支持したことから、8月には両者間の合戦へと発展。11月には勝敗が決し、敗れた利藤は近江国へ逃れ、六角氏のもとに身を寄せました。妙純は重臣の石丸利光（いしまるとしみつ）を近江に派遣し、利藤を追討させます。その後、利藤は京都へ移り、室町幕府の庇護を得ました。

妙純は美濃国内での立場を固める一方、周辺勢力との連携にも力を入れます。文明13年（1481年）10月には、越前国の朝倉氏景（あさくらうじかげ）に対し、斯波義廉（しばよしかど）の子である義俊（よしとし）を越前の名目的な当主として擁立することを提案しました。氏景がこれに同意したことで、斎藤氏と朝倉氏の連携は一層強固なものとなります。長享元年（1487年）5月、幕府の調停によって成頼・妙純と利藤の間で和議が成立し、利藤は美濃国守護代の地位に復帰を果たしますが、美濃国内の政治の実権は妙純が握り続けました。

延徳3年（1491年）4月20日には、妙純の娘（当時13歳）が朝倉氏景の子、朝倉貞景のもとへ嫁ぎ、斎藤氏と朝倉氏の結びつきはさらに強まりました。

船田合戦

美濃国内に権力を確立した妙純でしたが、守護土岐氏の内部対立に巻き込まれることとなります。守護成頼は嫡男の政房（まさふさ）よりも末子の元頼（もとより）を深く愛し、彼に家督を譲ることを望んでいました。このため、成頼は政房・妙純派を排除すべく、守護代に復帰していた利藤と結びます。さらに、強い出世志向を持つ石丸利光が同僚の西尾直教（にしおただのり）と対立している状況を知ると、成頼は利光に斎藤姓を許すことで妙純から離反させ、自らの陣営に引き入れたのです。こうした複雑な思惑が絡み合い、美濃とその周辺諸国を巻き込んだ大規模な内乱、「船田合戦」（ふなだがっせん）が勃発しました。

明応3年（1494年）12月、石丸利光は西尾直教による排除の動きを察知すると、居城である船田城（ふなだじょう）に兵を集め、妙純への奇襲を試みますが、これは失敗に終わります。事態を重く見た成頼の仲介により、一旦は妙純と利光の間で和議が結ばれました。妙純もまた、居城である加納城（かのうじょう）の防備を固めて万が一の事態に備えました。

明応4年（1495年）5月から6月にかけて、石丸利光は船田城に斎藤利藤の孫にあたる利春（としはる）、末子の毘沙童（びしゃどう）、そして土岐元頼を次々と迎え入れ、対決姿勢を鮮明にします。一方の妙純方には、尾張国の織田寛広（おだひろひろ。養父敏広の妻は妙椿の養女という縁があった）から援軍が駆けつけました。

同年7月1日、両軍は船田城周辺で激突します。合戦の結果、石丸方が敗れ、形勢不利と見た利光は、7月7日に船田城に火を放って近江へと逃亡しました。石丸方の敗北によって事態の収拾がついたことを受け、責任を感じたのか、成頼は城田寺城（じょうでんじじょう）に隠居し、嫡男の政房に家督と守護職を譲りました。

明応5年（1496年）5月、妙純が尾張国の織田寛広の支援のため出陣し美濃を離れていた隙を突き、石丸利光は近江の六角高頼（ろっかくたかより）、尾張の織田寛村（おだひろむら）、伊勢の梅戸貞実（うめどさだざね）らの援助を得て、4000の兵を引き連れて伊勢・尾張を経由し、成頼が隠居する城田寺城に入りました。報を受けた妙純方には、近江の京極高清、尾張の織田寛広、越前の朝倉貞景といった有力大名からの援軍が集結します。

同年5月27日に再び城田寺城周辺で合戦が始まりますが、石丸方は劣勢に立たされ、29日には城田寺城は完全に包囲されました。30日、追い詰められた利光は城内で自害します。成頼は、妙純が元頼を許さないであろうと考え、城から出ようとしませんでしたが、政房が出向いて懸命に説得にあたり、6月16日にようやく城を出ました。6月20日、城田寺城に火が放たれ、元頼も自害。土岐氏の内紛は終結し、斎藤利藤も間もなく隠居させられることとなりました。

同年8月、船田合戦終結後まもなく、妙純は法印権大僧都（ほういんごんのだいそうず）となり、嫡男の利親に家督を譲り隠居しました。

最期

しかし、妙純の戦いは終わりませんでした。同年9月、京極高清からの求めに応じ、船田合戦で石丸方に味方した六角高頼を討伐するため、妙純は隠居の身でありながら大将として近江国へ出陣します。緒戦では京極政経（きょうごくまさつね）を打ち破る勝利を収めましたが、六角方は蒲生貞秀（がもうさだひで）、延暦寺（えんりゃくじ）、伊勢の北畠政郷（きたばたけまささと）らの支援を受けて抵抗し、大きな戦闘もないまま戦線は膠着しました。結局、和議を結んで美濃へ撤収することが決定されます。

同年12月7日、美濃勢が撤収の準備にかかっていた矢先、長期にわたる侵攻とそれに伴う負担に不満を募らせていた近江の郷民や馬借（ばしゃく）による大規模な土一揆（つちいっき）が突如として蜂起しました。不意を突かれた美濃勢は装備や武器を奪われ、大混乱に陥ります。この混乱の中で、妙純は嫡男の利親と共に戦死しました。この奇襲による被害は甚大で、妙純以下1000人余りが命を落とし、斎藤持是院家は壊滅的な打撃を受けることとなったのです。

嫡男の利親が戦死したため、妙純の家督は幼少の孫である勝千代（かつちよ）ではなく、次男の又四郎が継承することとなりました。

斎藤妙純は、養父妙椿から受け継いだ美濃国内での権力を、家督争いや内乱を制することで強固なものとしましたが、志半ばで非業の最期を遂げ、美濃の歴史に大きな影響を与えました。

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