日印関係

日印関係の歴史と現状

日本とインドの関係は、古代から現代に至るまで、文化、政治、経済、軍事など多岐にわたる分野で深い結びつきを持っています。仏教を介した文化交流から始まり、近代の独立運動支援、そして現代の経済協力へと、両国は互いに重要なパートナーとしての関係を築いてきました。

古代から近代以前の関係

「天竺」としてのインド

近代以前の日本において、インドは「天竺」と呼ばれていました。ただし、この「天竺」は必ずしも現代のインドの領域と一致するものではありませんでした。中世・近世の日本では、仏教的な世界観である「三国世界観」が広まり、日本、中国、インド（天竺）が世界の主要な地域として認識されていました。この頃の「天竺」は、空想的な要素も含む遠い異国の地として捉えられていました。

仏教を介した交流

6世紀に仏教が日本に伝来したことが、日印の文化交流の始まりです。736年には、インド出身の僧侶である菩提僊那（ボーディセーナ）が来日し、仏教を広めるとともに、多くの文化や文物を伝えました。また、日本の仏教には、インドの神々が仏教に取り入れられ、弁財天、梵天、閻魔などとして信仰されるようになりました。

サンスクリット語や悉曇文字（梵字）も、仏教を通じて日本に伝わり、現代でも使われています。これらの文化的な影響は、両国の自然観の親和性にもつながっています。

交易とイスラム商人

15世紀末まで、インド洋から南シナ海にかけての交易は、インド出身のイスラム商人たちが主導していました。彼らは中国の都市に居住地を設け、一部は日本にも足を延ばした可能性があります。琉球の貿易船や「倭寇」の船も、東南アジアでインド系商人と取引を行っていたと考えられています。

ヨーロッパ人の進出

16世紀には、ヨーロッパ人がアジアに進出し、日本とインドを結ぶ仲介者となりました。日本人で初めてインドを訪れた人物として知られるのは、キリスト教徒のヤジロウ（アンジロー）です。彼はフランシスコ・ザビエルに会い、洗礼を受けています。初期のキリスト教宣教師たちは、日本人から「天竺人」と呼ばれ、キリスト教は「天竺宗」と認識されていました。

近代の関係

貿易と在日インド人コミュニティ

日本の近代化に伴い、直接的な交流が始まりました。開港地であった横浜や神戸には、貿易に従事するインド人が多く居住しました。特に神戸は、関東大震災後に横浜から移住したインド人が集中し、日本におけるインド人コミュニティの中心地となりました。

貿易摩擦と通商交渉

1930年代には、日本がインド市場への綿布輸出を拡大したことで、両国間に貿易摩擦が生じました。日本はインドとの通商交渉を行い、一時的に貿易協定を再締結しましたが、第二次世界大戦の勃発とともに、インドからの輸入は制限され、多くのインド商人が国外へ拠点を移しました。

インド独立運動と日本

20世紀初頭、日本の台頭はインドで肯定的に捉えられ、アジアの復活の象徴とみなされました。インド独立運動の活動家たちは、イギリスからの支配を逃れ日本に滞在し、ラース・ビハーリー・ボースなどの指導者は、日印関係の礎を築きました。日本人の犬養毅や頭山満なども、インド独立運動を支援しました。

第二次世界大戦中の関係

第二次世界大戦中、日本はインドの独立運動を支援し、インド国民軍とともにイギリス軍と戦いました。インド国民軍は、日本軍が捕虜にした英印軍の兵士や東南アジアのインド人から構成され、スバス・チャンドラ・ボースが率いていました。

現代の関係

戦後から現代へ

第二次世界大戦後、インドのラダ・ビノード・パール判事は、極東国際軍事裁判で日本の戦争犯罪をある程度認めつつも、国際法上の問題から日本の無罪を主張する意見書を発表しました。インドは、敗戦後の日本を励ますため、上野動物園に象を贈りました。

1951年、インドはサンフランシスコ講和会議への出席を拒否しましたが、日本との国交は1952年に樹立しました。インドは日本への賠償を放棄し、両国は経済協力や技術協力などを通じて関係を強化しました。しかし、冷戦下で、インドが非同盟政策をとり、日本がアメリカの同盟国となったため、両国関係は一時ぎくしゃくしました。

1980年代以降、インドの「ルック・イースト政策」により、日本は重要なパートナーとして位置づけられ、二国間関係は再び強化されました。日本はインドにとって最大の援助供与国となっています。

近年の関係強化

2006年、インドのマンモハン・シン首相が訪日し、戦略的グローバルパートナーシップを構築することで合意しました。その後、両国の首相による相互訪問が頻繁に行われ、関係はさらに深化しました。2013年には、日本の天皇皇后がインドを訪問し、両国間の友好関係を象徴する出来事となりました。現在、日印両国はお互いを非常に重要視しています。

経済協力

日本はインドにとって第3位の海外直接投資国であり、インフラ開発計画やデリー・ムンバイ間産業大動脈構想など、様々な分野で経済協力を進めています。2008年には、デリー・ムンバイ間を結ぶ鉄道建設事業に対し、過去最大規模の融資を供与しました。両国間の貿易も着実に増加しており、包括的経済連携協定についても協議が行われています。

軍事協力

インドと日本は、アジア太平洋地域における安全保障を維持するために緊密な軍事関係を築いています。両国は合同軍事演習や技術協力を行い、国際犯罪、テロリズム、海賊行為などの分野で協力しています。2008年には、安全保障共同宣言に署名しました。

文化交流

日印両国は、文化的なつながりも深く、2007年には日印友好年として、様々なイベントが開催されました。映画や音楽など、文化を通じた交流も活発に行われています。また、日本は、古代の仏教の中心地であったナーランダ大学の再建を支援しています。

まとめ

日印関係は、古代からの文化交流、近代の独立運動支援、そして現代の経済・軍事協力へと、長い歴史の中で多様な側面を発展させてきました。両国は、互いの歴史を尊重し、共通の利益を追求する重要なパートナーとして、今後も協力関係を強化していくことが期待されます。

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