日和山 (鳥羽市)

鳥羽の歴史を見守る日和山

三重県鳥羽市に位置する日和山は、鳥羽湾に面し、古くから航海の要所として、また景勝地として親しまれてきました。標高はそれほど高くありませんが、山頂からの眺望は素晴らしく、鳥羽湾に浮かぶ島々を一望できます。この山は、鳥羽三山の一つに数えられ、その歴史は深く、人々の暮らしと密接に関わってきました。

航海の目印、そして観光名所へ

日和山という名前は、かつて船乗りたちが天候を「日和見」するために山に登ったことに由来します。江戸時代には、大阪や西国から関東へ向かう廻船が、鳥羽港に寄港し、この山で天候を見定めたと言われています。そのため、山頂には方位石が設置され、航海の安全を祈願しました。明治時代になると、参宮線の開通や海上交通の整備により、鳥羽を訪れる観光客が増加。日和山は、その美しい景観から「鳥羽八景」の一つに選ばれ、多くの人々が訪れる観光名所となりました。最盛期には、山麓から山頂までを結ぶ日和山エレベーターが運行し、観光客を運んでいました。

日和山エレベーターの栄枯盛衰

1934年に開業した日和山エレベーターは、鳥羽駅前から山頂までを結ぶ、高さ51mの観光用エレベーターでした。当時、鳥羽を訪れる観光客にとって、このエレベーターは非常に魅力的な存在であり、鳥羽の観光の幕開けを象徴するものでした。しかし、太平洋戦争の影響で一時休止、再開後も1974年の鳥羽駅火災により焼失し、再建されることなく姿を消してしまいました。

世界初の無線電話発祥の地

日和山は、世界で初めて無線電話が実用化された地としても知られています。1914年、鳥羽と答志島、神島の間でTYK式無線電話の試験運用が開始され、船舶の入港時間を正確に把握するために活用されました。この技術は、後の無線通信技術の発展に大きく貢献し、その功績を称え、日和山には「無線電話発祥記念碑」が建てられています。

現在の日和山

現在の日和山は、かつての賑わいは失われたものの、山頂には展望台や幸せの鐘、無線電話発祥記念碑などが残されており、歴史を感じさせる場所となっています。登山道は整備されており、鳥羽駅や賀多神社から10〜15分程度で山頂に到達できます。山頂からの眺望は今も変わらず美しく、鳥羽湾の景色を一望できます。

日和山は、かつて航海の目印として、また観光地として栄え、無線電話発祥の地としても歴史に名を刻む、鳥羽の歴史と深く関わる山です。その歴史を偲びながら、山頂からの絶景を楽しんでみてはいかがでしょうか。

付近の山

鳥羽市内には、日和山の他に、小浜町に大日和山（標高：97.6m）があります。

アクセス

JR参宮線・近鉄鳥羽線鳥羽駅下車、徒歩。
賀多神社右脇からも登山道あり。

参考文献

「角川日本地名大辞典」編纂委員会『角川日本地名大辞典 24三重県』角川書店、昭和58年6月8日、1643pp.
鳥羽市観光課『鳥羽市観光基本計画 -資料編別冊- 鳥羽の観光略史年表』 (PDF) 2007年.42pp.
鳥羽市史編さん室『鳥羽市史 下巻』鳥羽市役所、平成三年三月二十五日、1347pp.
吉村利男『電信・電話の発達と世界初の無線電話』三重県生活・文化部文化振興室県史編さんグループ.昭和63年10月.（2011年1月14日閲覧。）

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