日羅関係

古代の日羅関係

古代の日本と新羅の関係は、単なる友好や敵対という二元論では捉えきれない、複雑で多面的なものでした。新羅の建国から滅亡まで、両国は政治、軍事、文化の各側面で深く関わり合い、互いに影響を与え合いました。この長い歴史の中で、両国は時に激しく対立し、時に協力し、また時には互いに文化を吸収しながら、それぞれの国の形成に影響を与えました。

新羅建国神話と倭

新羅の建国神話には、倭国（日本）との深い繋がりが示唆されています。新羅の王家は、朴氏、昔氏、金氏の三つの系統がありますが、これらの始祖説話には倭国や倭人が登場します。例えば、朴氏の始祖とされる瓠公は倭人であると伝えられ、昔氏の始祖である脱解王は、倭国東北の多婆那国の王子であるとされています。この「多婆那国」は、丹波国をはじめとする日本列島の地域を指すという説もあります。また、金氏の始祖である金閼智の説話にも、倭との関連が指摘されています。これらのことから、新羅建国初期において、倭との関係が深かったことが伺えます。

古代の軍事衝突

新羅建国初期から、日本からの侵攻が繰り返されたという記録が残っています。『三国史記』には、倭国が新羅に対して度々軍事侵攻を行い、新羅が敗北して領土や財産を割譲したという記述が多数見られます。例えば、1世紀には倭国からの侵攻が相次ぎ、新羅は苦戦を強いられました。また、2世紀には倭国との講和が成立したこともありますが、その後も倭国からの侵攻は断続的に続きました。3世紀には、倭人が新羅の国境を侵犯し、首都金城に攻め込むなど、激しい戦闘が繰り広げられました。4世紀には、倭国と高句麗が新羅の支配権を巡って争い、新羅は両国の間で翻弄される状況となりました。この時代には、広開土王碑に、倭が新羅を臣民としたという記述もあり、倭国による新羅への支配が一時的に存在したことを示唆しています。

新羅の倭国への服属

広開土王碑や中原高句麗碑などの史料によると、新羅は時期によって倭国や高句麗の支配を受けていたことが明らかになっています。特に広開土王碑には、391年に倭が新羅を破り、臣民としたという記述があり、古代において新羅が倭国に従属していた時期があったことがうかがえます。また、職貢図においても、新羅が倭国に属していたという記述が見られます。しかし、これは新羅が常に倭国の支配下にあったことを意味するのではなく、両国の力関係が変動する中で、一時的に支配関係が生じたと考えられます。

5世紀以降の新羅の台頭

5世紀後半になると、新羅は倭国や高句麗の支配下から脱却しようと動き始めます。新羅は辰韓諸国に対する支配力を強め、伽耶諸国の領有をめぐって百済とも対立するようになり、朝鮮半島で三国が争う時代を迎えます。6世紀には、新羅は智証麻立干や法興王らの努力によって国力を高め、真興王の時代には領土を拡大しました。562年には伽耶を滅ぼし、朝鮮半島における勢力を確固たるものにしました。

7世紀：唐との連携と白村江の戦い

7世紀になると、新羅は唐との関係を深め、百済や高句麗に対抗するようになります。660年には唐との連合軍で百済を滅ぼし、668年には高句麗も滅亡させました。しかし、その過程で唐と対立することとなり、663年には白村江の戦いで倭国（日本）の水軍が唐・新羅連合軍に敗北しました。この戦いによって、倭国は朝鮮半島への影響力を失い、新羅は朝鮮半島をほぼ統一することとなりました。

統一新羅と日本

朝鮮半島を統一した新羅は、その後も唐との関係を維持しながら、国内の制度を整備し、文化を発展させました。一方、日本は新羅との間に使節を派遣し、交流を続けましたが、両国の関係は必ずしも良好ではありませんでした。新羅が国号を「王城国」と改称したことを日本が非難したり、新羅の使者が日本の朝廷で不当な扱いを受けたりするなど、両国間には緊張が続いていました。また、新羅国内が混乱すると、日本への亡命者が増加し、海賊化した新羅人による襲撃も発生しました。このような事態に対して、日本は新羅に対する警戒を強め、対外交政策を転換させることになります。

新羅の滅亡

9世紀後半になると、新羅国内は貴族間の対立や農民反乱が頻発し、国力が衰退していきました。有力な地方豪族が台頭し、9世紀末には後百済や後高句麗が建国され、朝鮮半島は再び分裂状態となります。最終的に新羅は高麗に吸収される形で935年に滅亡し、長い歴史に幕を閉じました。

日羅関係の変遷と影響

古代の日本と新羅の関係は、複雑で多岐にわたるものでした。新羅の建国神話には倭との関連が示唆され、両国は軍事的な衝突を繰り返す一方で、文化的な交流も行われていました。統一新羅時代になると、両国間の関係は政治的な駆け引きが繰り広げられ、緊張が高まる時期もありました。新羅の滅亡によって、古代の日羅関係は終焉を迎えましたが、両国が互いに与えた影響は、それぞれの国の歴史に深く刻まれています。

参考文献

石井正敏「8・9世紀の日羅関係」(『日本前近代の国家と対外関係』田中健夫編,吉川弘文館,1987所収)
浜田耕策「高句麗広開土王碑文の研究――碑文の構造と史臣の筆法を中心として（日本における朝鮮史像（特集））」『朝鮮史研究会論文集』第11号、朝鮮史研究会、1974年3月、pp. 1-37、ISSN 0590-8302。
浜田耕策「4世紀の日韓関係」第1回日韓歴史共同研究2005年。財団法人日韓文化交流基金、第1回日韓歴史共同研究報告書 で閲覧可能(2012年2月閲覧)。また 九州大学 21世紀COEプログラム（人文科学）「東アジアと日本：交流と変容」HP#第3回「東アジア諸国家とその形成過程の比較研究」領域横断ゼミ・研究会（2005/03/29）#浜田耕策「七支刀銘文の語るもの」
河内春人「詔勅･処分にみる新羅観と新羅征討政策」『駿台史学』第108号、明治大学史学地理学会、1999年12月、23-42頁、ISSN 0562-5955、NAID 120001438973、NCID AN00125896。
具蘭憙, 中野高行「8世紀後半日本の対外関係に関する考察 : 渤海との関係を中心に」『史学』第76巻第2-3号、三田史学会、2007年12月、177-200頁、ISSN 03869334、NAID 110007411117。
酒寄雅志「古代日本と蝦夷・隼人、東アジア諸国」『日本の時代史4 律令国家と天平文化』所収、2002年.

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