明大紛争

明大紛争

明治大学で1968年（昭和43年）から1969年（昭和44年）にかけて起こった大規模な学生運動を指す。学生側の呼称では「明大闘争」とも呼ばれる。全国の大学で学生運動が活発化していた時期に発生し、学費値上げを契機に全学的な広がりを見せた。運動を主導したのは、他の大学で見られた全学共闘会議（全共闘）とは異なり、「明治大学全学闘争委員会」（全学闘）と称する組織であった。

背景

1960年代後半、日本社会は高度経済成長期にあり、同時に18歳人口が急増し大学進学率も上昇した。これにより大学教育は大衆化したが、教育環境の整備が追いつかず、学生の不満が高まっていた。これが大学紛争の背景となった。明治大学も、有力私学と比較して学費が抑えられていたため、長年にわたり財政的に厳しい状況にあった。

こうした大学環境への不満が、明大紛争発生の背景となった。先行して早稲田大学や慶應義塾大学で紛争が終結した後、戦後の学生運動において拠点の一つであった明治大学が次の紛争校となることが広く予想されており、マスコミも注目していた。紛争は日本大学紛争に次ぐ規模となり、私立大学では異例の機動隊導入（和泉校舎）も発生するなど、社会に大きな影響を与えた。

紛争の経過

紛争は1968年6月、大学当局による学費値上げの決定に対し、学生たちが抗議行動を起こしたことに始まる。この抗議を組織化したのが、工学部生の大内義男が委員長を務めた明治大学全学闘争委員会（全学闘）であった。全学闘は、当時明治大学で再結成された三派全学連（斎藤克彦委員長、商学部生）と連携し、一般学生のみならず教職員組合、体育会、さらには大学の理事会までもを巻き込みながら運動を展開した。

運動は急速に拡大し、駿河台、和泉、生田といった大学の全キャンパスで学生によるバリケードストライキが実行された。学生側は、大学当局に対し、学生と大学の代表者が直接議論する「大衆団交」を要求し、その場で学費値上げの撤回を強く求めた。交渉は激しく対立し、収拾の見込みが立たない状況が続いた。卒業試験や翌年度の入学試験の実施が危ぶまれる事態となり、社会的な懸念も広がった。

このような状況の中で、全学闘の指導部は次第に大学当局との妥協による解決を目指す方向に傾いた。

終結とその後の影響

紛争は、意外な形で急速に終結を迎えた。1969年2月2日、銀座東急ホテル（当時）において、大学当局側（武田孟総長、宮崎繁樹学生部長）と学生側（大内義男全学闘委員長）、そして立会人として三派全学連の斎藤克彦委員長が出席し、「暁の調印」と呼ばれる覚書が交わされたのである。

覚書の内容は以下の通りである。

大学内の諸問題の根本的な改善について、早期に検討を進める。
学費値上げは実施するものの、値上げによって得られた収入は、上記1の改善策が確定した後にその予算に計上する。
学生側は、大学内のバリケード封鎖を速やかに解除するなど、学内の正常化に協力する。

この調印により、長期間に及んだ紛争は一夜にして終結した。

紛争の急終結の背景には、学生側の内部対立があったとされる。三派全学連内で主導権を握っていたブントは、他党派の突き上げや大学当局との関係悪化に直面し、組織の温存を優先して早期妥協を選んだという見方がある。この結果、ブントは他の党派から「裏切り」であるとして激しい非難を浴びることになった。

暁の調印の責任を取り、三派全学連の斎藤委員長（ブント系）は辞任し、後任には中核派から秋山勝行（横浜国立大学生）が就いた。ブント批判や紛争終結への反発から、一部の活動家は過激化していった。この紛争に関与した人物の中には、後に東大安田講堂事件に関わった上原敦男、米田隆介、日本赤軍創設者の重信房子、連合赤軍山岳ベース事件で犠牲となった遠山美枝子など、その後の過激派事件で知られるようになる者もいた。

紛争を主導した大内委員長と、三派全学連の斎藤委員長は、紛争後に大学から退学処分を受けた。明大紛争は、学生側の党派間の派閥争いが収束に影響を与え、結果として学生側が要求を十分に実現できないまま終結した事例として記憶されている。

関連事項

大学闘争
全日本学生自治会総連合
全学共闘会議
日大紛争
東大安田講堂事件

参考文献

宮崎繁樹 著 『雲乱れ飛ぶ』
山平重樹 著 『連合赤軍物語 紅炎』
* 明治大学百年史編纂委員会 編 『明治大学百年史』 第四巻 通史編Ⅱ

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