春日大社五重塔

春日大社五重塔：幻の双塔

春日大社五重塔とは、かつて春日大社境内に存在した東西一対の五重塔のことです。中世の奈良を彩った壮麗な塔でしたが、現在は焼失し、その姿を見ることはできません。

歴史

創建

西塔： 天永3年（1112年）、関白藤原忠実が建立を発願し、「殿下の御塔」と称されました。興福寺の承暦度五重塔を参考に造られたといわれています。
永久4年（1116年）に落慶。回廊に囲まれた美しい姿をしていました。内部には、釈迦如来、薬師如来、地蔵菩薩、十一面観音菩薩（それぞれ脇侍を有する三尊形式）の春日四所の本地仏が安置され、釈迦三尊の脇には不空羂索観音も祀られていました。
東塔： 保延6年（1140年）には、鳥羽上皇の発願により東塔が建立され、「院の御塔」と呼ばれました。こちらも回廊で囲まれ、裳階（もこし）が付けられていたのが特徴です。高さは十七丈（約52メートル）あったと伝えられています。

焼失と再建

治承4年（1180年）、平重衡による南都焼討により、東西両塔は惜しくも焼失してしまいます。
建保5年（1217年）、東塔が再建されます。
寛元4年（1246年）には、西塔の心柱に相輪裳が上げられました。再興された西塔は、宝治年間（1247年-1249年）頃までに落成したと考えられています。

再びの焼失、そして現在

応永18年（1411年）閏10月15日、落雷により興福寺の東金堂、五重塔、大湯屋と共に両塔は再び焼失してしまいます。
その後、度々再建の計画が持ち上がりましたが、現在に至るまで実現には至っていません。

春日曼荼羅と五重塔

春日曼荼羅には、春日大社の神々が描かれると共に、五重塔が描かれていることがあります。これは、春日大社の神仏習合の思想を象徴するものであり、五重塔が春日信仰において重要な役割を果たしていたことを示しています。

参考文献

上田篤編『五重塔はなぜ倒れないか』新潮社（新潮選書）
殿暦
中右記
百錬抄
興福寺別当次第
院家雑々跡文

関連リンク

春日東西塔跡

関連項目

春日曼荼羅
四恩院十三重塔：興福寺四恩院にあった木塔。明和年間に焼失。
興福寺多宝塔：興福寺子院にあった八角多宝塔。明治の廃仏毀釈で喪失。

春日大社五重塔は、その美しい姿と歴史の中で、春日大社の信仰を象徴する存在でした。再建されることはありませんでしたが、その記憶は春日曼荼羅などを通して、今も私たちに伝えられています。

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