暗黒の神話

キッス『暗黒の神話』(Creatures of the Night) - ハードロックへの回帰とメンバーの変遷

『暗黒の神話』は、1982年にリリースされたキッスの10枚目のスタジオ・アルバムです。このアルバムは、オリジナル・リード・ギタリストのエース・フレーリーが在籍中に発表された最後のアルバムであり、ヴィニー・ヴィンセントが初めて起用された作品として知られています。また、トレードマークであるメイクを施したキッスの最後のアルバムでもあります。

概要

1970年代後半、『地獄の軍団』(1976年）や『ラヴ・ガン』（1977年）で商業的成功を収めたキッスは、本作でハード・ロック・スタイルに戻ることを意識しました。しかし、ポップなアルバム『地獄からの脱出』（1979年）や『仮面の正体』（1980年）、さらに実験的な『〜エルダー〜魔界大決戦』（1981年）で人気が低迷。1982年、『暗黒の神話』でヘヴィなサウンドへの回帰を目指しました。

その中心となったのが、ソングライター/ギタリストのヴィニー・ヴィンセントです。ヴィンセントは、アダム・ミッチェルに紹介され、エース・フレーリーの後任としてバンドに加入しました。しかし、フレーリーは契約上の理由からアルバム・カバーに顔写真が掲載されたものの、実際には演奏に参加していません。彼は以前からヘヴィ・ロックへの回帰を訴えていましたが、『暗黒の神話』の頃にはバンドに幻滅し、アルコールと処方薬への依存症のため、レコーディング中に脱退しました。

アメリカでの人気が急落していた当時のキッスは、音楽性の変化によってファンを遠ざけていました。『地獄からの脱出』は商業的には成功したものの、ディスコ調の曲「ラヴィン・ユー・ベイビー」は多くのファンを失望させました。『仮面の正体』はさらにポップな方向へ進み、デビュー以来初めてプラチナ・ステータスを獲得できませんでした。また、創設メンバーのピーター・クリスが脱退し、エリック・カーが後任となりました。

バンドは最もヘヴィなレコードをレコーディングすると発表し、ファンの期待を高めましたが、リリースされた『〜エルダー〜魔界大決戦』はコンセプト・アルバムとして評価が分かれ、アメリカのファン層をさらに遠ざけました。その後のツアーも中止となり、フレーリーはバンドを去りました。

また、レーベル状況も変化していました。カサブランカ・レコードの創始者であるニール・ボガートがレーベルを売却し、その後死去。キッスはマーキュリー・レコードと契約を結び、新たなスタートを切ることになりました。

レコーディング

1982年7月、『暗黒の神話』のレコーディング・セッションが始まりました。フレーリーはバンドに在籍していたものの、音楽的な関わりはほぼなく、ヴィニー・ヴィンセントがリード・ギターのほとんどを担当しました。また、スティーブ・ファリスがタイトル曲のソロとリード・フィルを担当し、アダム・ミッチェルもギターで参加しています。

音楽的には、『〜エルダー〜魔界大決戦』のプログレッシブ・ロックや、『地獄からの脱出』のポップさはなく、ヘヴィなサウンドが特徴です。唯一のバラードである「アイ・スティル・ラヴ・ユー」も、それまでのキッスのバラードよりもヘヴィでダークな雰囲気を持っています。また、カーのドラミング・スタイルは、クリスのジャズに影響を受けたスタイルとは異なり、ジョン・ボーナムに近いものでした。

ジャケット

アルバム・アートワークは、1982年のオリジナル盤、1985年の再発盤（メンバーがノーメイクで登場）、1997年のリマスター盤の3種類が存在します。1985年のノーメイク盤では、「クリーチャーズ・オブ・ザ・ナイト」がリミックスされ、「セイント・アンド・シナー」と「Killer」が入れ替えられています。

評価

『暗黒の神話』は、Kerrang!とGuitar Worldの両誌で1982年のベスト・ハード・ロック・アルバムの5位にランクインするなど、高い評価を得ました。カーはインタビューで、本作を自身が演奏したキッスのレコードの中で最も好きなものだと述べています。また、シモンズとスタンレーも、『暗黒の神話』を彼らの強力な作品のひとつと考えています。

しかし、商業的な成功は限定的で、1994年にRIAAからゴールド認定を受けたものの、かつてのような人気を取り戻すことはできませんでした。

ライブ活動

Creatures of the Night Tourは、1983年の最初の5ヶ月間にわたって北米を中心に行われました。しかし、チケットの売れ行きは芳しくなく、会場は半分程度の入りでした。それでも、「ウォー・マシーン」、「アイ・ラヴ・イット・ラウド」、「クリーチャーズ・オブ・ザ・ナイト」は、今日までキッスのコンサートの定番曲となっています。

『暗黒の神話』は、メンバーの変遷や音楽性の変化など、様々な要素が絡み合った作品であり、キッスの歴史において重要なターニングポイントとなりました。

もう一度検索