有馬徹とノーチェ・クバーナ

日本の音楽シーンにおいて、ラテンビッグバンドの金字塔として知られるのが「有馬徹とノーチェ・クバーナ」です。この楽団は1954年に、初代リーダーである有馬徹（1927年 1月2日生 - 1993年 6月3日没）によって設立されました。

楽団名の「ノーチェ・クバーナ」はスペイン語で「キューバの夜」を意味し、その名の通り、活動当初は中南米音楽を主軸に据えた演奏を展開しました。しかし、彼らの音楽性は次第に広がりを見せ、クラシック音楽をラテンリズムに乗せてアレンジしたり、ポピュラーソング、ジャズスタンダード、映画音楽、さらには日本の民謡までを独自の解釈で演奏するようになりました。アレンジャーには前田憲男などが名を連ね、彼らの多彩な編曲は楽団のサウンドに深みを与えています。

初代リーダー有馬徹は、単に「聴かせる演奏」に留まらず、「観る者を魅了するステージング」にも着目しました。その後の展開として、淡谷幹（現在の淡谷幹彦）が中心となり、エンターテイメント性の高いショーバンドとしてのスタイルを確立。彼らのステージは視覚的にも楽しめるものとなりました。

歌手との共演も多く、特に石原裕次郎とはコンサートやレコーディングにおいて数多くの実績を残しています。石原裕次郎のコンサートにおけるバックバンドを務めたり、彼のレコードアルバム制作に深く関わったりと、歌謡界においても重要な役割を果たしました。

有馬徹が残した楽譜は、楽団員によって今日まで忠実に継承され、そのサウンドは今なお健在であると、NHK関係者からも高い評価を得ています。国内はもとより、アメリカ、ロシア（旧ソビエト連邦時代を含む）、ポーランドなど、海外での公演も積極的に行い、日本の代表的なラテンビッグバンドとして、その音楽を国際的に紹介してきました。

また、彼らはインターナショナル選手権NHK杯において長年にわたりレギュラー出演を務めるなど、ダンスバンドとしても重要な役割を担っています。聴衆が踊りを楽しむための、正確かつリズミカルな演奏は、ダンス愛好家からも厚い信頼を得ています。

2014年には結成60周年という大きな節目を迎えました。初代有馬徹の没後、ボーカル＆ギタリストの淡谷幹彦が二代目リーダーとして楽団の指揮を執り、伝統的な「有馬徹とノーチェ・クバーナ」のサウンドを今なお提供し続けています。日本のラテン音楽界において、これほど長く第一線で活動を続けるオーケストラは稀有であり、その歴史と功績は非常に大きなものです。

楽団の長い活動の中には、テレビ番組へのレギュラー出演も多数あります。1964年のNHK「歌のグランド・ショー」を皮切りに、NHK紅白歌合戦（1965年～1967年）、フジテレビ「お昼のゴールデンショー」（1968年）、テレビ朝日「アフタヌーンショー」（1968年）、フジテレビ「夜のヒットスタジオ」（1968年-1969年）などで、その演奏を全国に届けました。その他にも、「題名のない音楽会」「魅惑のメロディー」「ザッツミュージック」など、多様な番組に出演しています。

主なコンサート活動としては、民主音楽協会や労音（勤労者音楽協議会）主催による全国ツアーを長年にわたり実施。1965年にはNHKホールでの成人の日記念公演に出演し、皇太子ご夫妻（当時）が臨席されたことでも知られています。また、1978年には文化庁芸術祭参加公演も行っています。

楽団のエピソードとして、1968年に出演していた「お昼のゴールデンショー」で、司会の前田武彦やコント55号らが、有馬徹の表情を変えない様子を見て「鉄仮面」というユニークなあだ名をつけたという逸話があります。

現在の楽団編成は以下の通りです。

トランペット：4名
サックス：5名
パーカッション：2名
リズムセクション（ピアノ、ベース、ドラムス）：各1名
ボーカル＆ギター：1名

彼らのディスコグラフィーには、ダンスアルバムから、石原裕次郎との共演盤、そして過去の音源をまとめた全集など、多岐にわたる作品が含まれます。

『ダンスダンスダンス』（1984年、キングレコード）
『レッツ・ダンス』1-6巻（1985年、ユピテルレコード）
『裕ちゃんのホワイト・クリスマス』（石原裕次郎／有馬徹とノーチェクバーナ、2004年、テイチクエンタテイメント）
『有馬徹と「ノーチェクバーナ全集6巻」』（2011年、テイチクエンタテインメント）
『石原裕次郎リサイタル(1967年渋谷公会堂収録）』（2011年、テイチクエンタテイメント）
* 『有馬徹と「ノーチェクバーナの魅力5巻」』（2012年、テイチクエンタテインメント）

初代リーダーの遺志を受け継ぎ、二代目リーダーのもと、有馬徹とノーチェ・クバーナは今も日本のラテン音楽シーンを牽引し続けています。その豊潤なサウンドと歴史は、多くのファンに愛され、日本の音楽文化に深く根ざしています。

もう一度検索