朝鮮人民軍偵察総局

朝鮮人民軍偵察総局：北朝鮮の諜報・特殊工作機関

朝鮮人民軍偵察総局は、朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）の国防省傘下に位置する対外諜報・特殊工作機関です。この組織は、北朝鮮の国家戦略において重要な役割を担い、その活動は国内外にわたります。主な任務は、大韓民国（韓国）やその他の国々に対するスパイ浸透、要人暗殺、情報収集、世論操作、各種破壊工作、さらには違法な物品の密売・密輸による外貨獲得など、多岐にわたります。

歴史

偵察総局は、2009年に朝鮮人民軍総参謀部偵察局、朝鮮労働党作戦部、朝鮮労働党対外情報調査部の統合によって発足しました。この再編により、偵察総局は総政治局、総参謀部と並ぶ人民武力部（現在の国防省）の三大機関の一つとなりました。初代総局長には金英哲が就任し、その後、張吉成を経て、2019年12月には林光日が総局長に就任したとされています。

主な活動と事件

偵察総局は、数々の事件に関与しているとされています。以下はその主な例です。

黄長燁暗殺計画: 偵察総局は、韓国に亡命した黄長燁の暗殺を計画し、脱北者に偽装した工作員を韓国に送り込みました。しかし、この工作員は2010年に韓国当局に逮捕されました。
天安沈没事件: 韓国政府は、2010年に発生した天安沈没事件を偵察総局が主導したと認定しています。
金寛鎮国防長官暗殺計画: 2011年には、偵察総局が当時の韓国国防長官であった金寛鎮の暗殺を企てた疑惑が浮上しました。
金正男暗殺事件: 2017年にマレーシアのクアラルンプールで発生した金正男暗殺事件では、偵察総局の19課が中心的な役割を果たしたとされています。この課は毒殺を専門としており、過去には李韓永暗殺事件にも関与したとされています。
サイバー攻撃: 偵察総局は、朝鮮労働党や国務委員会傘下の他の機関と共に、各国へのサイバー攻撃も担当しています。2013年には、韓国の金融機関や放送局のコンピューターをダウンさせる大規模なサイバー攻撃を実行しました。また、オンライン賭博ゲームのプログラムにウイルスを仕込み、韓国で流通させ、外貨獲得とサイバー攻撃に利用しようとしたことも判明しています。
ウクライナへの関与: 2024年10月には、偵察総局長の李昌虎がロシアに派遣されたことが報告されており、北朝鮮のロシア派兵に関与していることが示唆されています。

組織と構成

偵察総局は、その内部に複数の部門や課を抱えており、それぞれが特定の任務を担当しています。例えば、19課は毒殺専門とされています。

歴代局長

偵察総局の歴代局長は以下の通りです。

初代: 金英哲 (2009年2月 - 2016年1月)
第2代: 張吉成 (2016年1月 - 2019年12月)
第3代: 林光日 (2019年2月 - 現在)

参考文献

安明進 著、金燦 訳『北朝鮮拉致工作員』徳間書店, 2000
安明進 著、太刀川正樹 訳『新証言・拉致』廣済堂出版, 2005
康明道 著、尹学準 訳『北朝鮮の最高機密』文藝春秋, 1998
金賢姫 著、池田菊敏 訳『金賢姫全告白 いま、女として（上・下）』文藝春秋, 1991
清水惇『北朝鮮情報機関の全貌』光人社, 2004
清水惇『北朝鮮軍の全貌』光人社, 2005
高沢皓司『宿命-「よど号」亡命者たちの秘密工作』新潮社, 2000
張龍雲『朝鮮総連工作員―『黒い蛇』の遺言状』小学館, 1999
全富億『北朝鮮の女スパイ』講談社, 1994
全富億『北朝鮮のスパイ戦略』講談社, 2002
李友情作・漫画『マンガ金正日入門　拉致国家北朝鮮の真実』李英和訳・監修, 飛鳥新社, 2003
李友情作・漫画『マンガ金正日入門　北朝鮮将軍様の悪夢』李英和訳・監修, 飛鳥新社, 2004
別冊宝島編集部 編『決定版! 北朝鮮ワールド』宝島社, 2003
『横田めぐみは生きている 安明進が暴いた日本人拉致の陰謀』講談社, 2003

関連項目

朝鮮民主主義人民共和国の諜報・情報機関
朝鮮労働党作戦部
北朝鮮拉致問題
金正日政治軍事大学
915病院
* 南朝鮮革命史跡館

偵察総局は、北朝鮮の対外政策を遂行する上で重要な役割を果たす組織であり、その活動は国際社会の注目を集めています。今後もその動向が注視されるでしょう。

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