朝鮮神宮

朝鮮神宮（ちょうせんじんぐう）

朝鮮神宮は、かつて朝鮮半島に存在した神社で、京城府（現在のソウル特別市）の南山に位置していました。官幣大社として、朝鮮半島の総鎮守とされ、日本の国家[[神道]]において重要な役割を果たしました。

歴史

1919年（大正8年）7月18日、天照大神と明治天皇を祭神とする「朝鮮神社」として創立が決定され、官幣大社に列せられました。1920年（大正9年）には、南山の頂上にある広大な敷地（約20万坪、境内7000坪）に、総工費150万円をかけて社殿の建設が始まり、6年をかけて完成しました。

社殿は、石段の表参道のほか、東西に2つの参道がありました。建築家・伊東忠太の設計による正殿、神庫、祝詞舎、瑞垣門、勅使殿、手水舎、社務所などが境内に配置されていました。初代宮司には高松四郎が任命されました。

1925年（大正14年）6月27日、「朝鮮神社」は「朝鮮神宮」に改称され、同年9月14日には鎮座祭の日（10月15日）と例祭日（毎年10月17日）が定められました。同年10月15日には、勅使として園池掌典次長が御霊代を奉戴し、盛大な鎮座祭が執り行われました。17日には、園池勅使の参向のもと、初の例祭が挙行されました。以後、例祭には勅使が参向し、神宮の宮司は勅任待遇となりました。

神宮創建と同じ年の10月には、神宮名を冠した記念の体育祭典「朝鮮神宮競技大会」が、完成したばかりの京城運動場で開催されました。野球、テニス、陸上競技などが行われ、この総合スポーツ大会は1941年（昭和16年）の第17回まで毎年秋の恒例行事として開催されました。

第二次世界大戦での日本の敗戦に伴い、1945年（昭和20年）8月16日に「御霊昇神の儀」が執り行われ、同年11月17日に廃社となりました。神宮の跡地には南山公園が作られ、現在では安重根義士記念館やNソウルタワーなどが建てられています。

朝鮮神宮御祭神論争

朝鮮神宮の鎮座直前には、祭神を巡って論争が起きました。今泉定助、葦津耕次郎、賀茂百樹（賀茂真淵の子孫）、肥田景之（神職、実業家、衆議院議員）などの神社関係者や、後に「海外神社協会」を組織する小笠原省三らは、「朝鮮神宮には朝鮮の国土の神を祀るべき」と主張しました。彼らは、政府が1919年に発表した「祭神を天照大神・明治天皇とする」という方針の見直しを求めました。

小笠原省三は著作の中で、「神道は古来よりその土地の神や偉人を祀り、その土地の様式を取り入れた神社を建てるべきである。天照大神は伊勢神宮の祭神であるから、朝鮮神宮には朝鮮の偉人を祀り、朝鮮の様式を主とした社殿を建てるべきである。また、神職には朝鮮名家の由緒正しい人物を任じるべきだ」と主張しました。神社人の間では、檀君を「朝鮮国魂神」として祀るべきという議論が起こりましたが、これらの主張は受け入れられませんでした。神社新報社は、「海外の新しい領土に天照大神を祀るのは、ヨーロッパ諸国がアジアの植民地にキリスト教を伴ったのと似ている」と批判し、「日本の思想にはないもので、神道の思想の変質である」と断じました。

参拝の奨励・強要と神社参拝拒否運動

朝鮮神宮の建立後、朝鮮総督府は皇民化政策の一環として神社参拝を奨励し、各家庭での神棚設置と礼拝を推進しました。日中戦争が始まった1937年（昭和12年）以降、神社参拝はさらに強く奨励されました。

日米関係が悪化するにつれて、朝鮮のキリスト教徒に対する圧力も強まりました。植民地統治下でも、キリスト教会内部では比較的、表現と集会の自由が認められていましたが、これは過去の堤岩里事件に対する欧米からの強い批判が背景にありました。しかし、カトリック教会への圧力が強まる中、1939年（昭和14年）には長老派教会が警察官立ち会いのもとで神社参拝を決議しました。これに反対した約2000人の牧師や教徒が検挙・投獄されました（神社参拝拒否運動）。この際、日本基督教団は神社参拝に反対する朝鮮の教会に赴き、「国家の祭祀を要求することは改宗を迫るものではない」という趣旨で、反対派の牧師たちを説得しました。しかし、神社参拝拒否運動は、200あまりの教会が閉鎖されるという結末を迎えました。

関連書籍

『朝鮮神宮年報』 官幣大社朝鮮神宮社務所 1933年～
『鳥居』 朝鮮神職会会報
『神社・学校・植民地: 逆機能する朝鮮支配』 樋浦郷子 2013年

参考文献

『恩来』 朝鮮神宮御鎮座十周年記念 朝鮮神宮奉賛会編纂 昭和12年11月20日発行

関連項目

近代社格制度
南山
京城神社
京城帝国大学
* 同化政策、教化

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