木野雅之

木野 雅之

木野 雅之（きの まさゆき）は、1963年6月1日生まれ、東京都清瀬市出身の日本を代表するヴァイオリン奏者です。世界的なコンクールでの輝かしい成績と、国内外での精力的な演奏活動、そして教育者としての貢献を通じて、日本のクラシック音楽界において重要な存在感を示しています。

音楽教育と研鑽

4歳でヴァイオリンを始めた木野氏は、まず日比野愛次に師事し、音楽の基礎を築きました。その後、桐朋学園の「子供のための音楽教室」に進み、篠崎功子、西川重三といった指導者から薫陶を受けます。桐朋女子高等学校音楽科を卒業後、さらなる飛躍を目指し、ロンドンのギルドホール音楽演劇学校へ留学。ここではイフラ・ニーマンのもとで研鑽を積み、その才能を磨きました。留学後も、ナタン・ミルシテイン、ルッジェーロ・リッチ、イヴリー・ギトリスといった20世紀を代表する巨匠たちに教えを請い、自身の音楽を高めていきました。

演奏活動と国際的な活躍

1984年より本格的な演奏活動を開始。その才能は瞬く間に国内外で認められ、数々のオーケストラと共演を重ねています。ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン交響楽団、ポーランド国立放送交響楽団、モスクワ放送交響楽団など、世界の主要オーケストラとの協演リストは40曲を超える協奏曲レパートリーとともに、彼の国際的なキャリアの広がりを示しています。また、サンレモやオールドバラ、オウルンサロといった著名な国際音楽祭にも頻繁に招かれ参加。BBC（英国）、ラジオ・フランス、RAI（イタリア）、RTSI（スイス）などの放送局にも出演し、その演奏は広く世界に紹介されています。

特に印象的な活動としては、1988年にイヴリー・ギトリスと共演した公演がフランスとスペインでテレビ放映されたこと、そして2001年には東京で自身が主催した「パガニーニの魅力」コンサートがあります。この企画では、パガニーニ時代のオーケストラ編成や、通常より高く調弦されたヴァイオリンを使用するなど、作曲家の意図を深く掘り下げる試みが行われ、テレビ朝日ブロードバンド・ライブサイトで放映されるなど注目を集めました。2003年には、フランスのカシス音楽祭でイヴリー・ギトリス、ルッジエーロ・リッチ、マルタ・アルゲリッチというレジェンドたちとの共演を果たし、その存在感を不動のものとしました。

コンサートマスターと室内楽

オーケストラ奏者としても活躍し、名古屋フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターを務めた後、日本フィルハーモニー交響楽団へ移籍。2002年には同団のソロコンサートマスターに就任し、長年にわたりオーケストラの顔として演奏を牽引しました。日本フィルとの演奏会では、協奏曲のソリストとしてもたびたび登場しています。

室内楽奏者としての評価も高く、ルガーノ・カルテット（弦楽四重奏）、トリオ・ミンストレル（ピアノ三重奏）のメンバーとして活動。近年はピアソラ作品にも積極的に取り組み、バンドネオン奏者の啼鵬らとも共演するなど、その音楽性は多様な広がりを見せています。

ヴィルトゥオーソと作品探求

木野氏は、パガニーニやサラサーテ、イザイといった超絶技巧を要求される難曲を、あたかも容易であるかのように弾きこなすヴィルトゥオーソとして知られています。その技術的な卓越性のみならず、音楽の深みと表現力でも聴衆を魅了します。また、演奏活動と並行して、埋もれていたヴィルトゥオーゾ作品などのヴァイオリン曲の発掘と紹介にも情熱を注いでいます。パガニーニ作曲の「カプリス第25番」の出版監修を行うなど、楽譜の出版にも関わり、ヴァイオリン音楽のレパートリー拡大に貢献しています。

指導者としての情熱

後進の指導・育成にも精力的に取り組んでいます。1997年から2024年まで夏季に長野県白馬村でセミナーを開催、2008年からは三重県志摩市でもマスター・クラスを開講。さらに、桐朋学園大学、武蔵野音楽大学、東京音楽大学で教鞭を執り、2013年からは東京音楽大学教授として多くの学生を指導しています。自身の経験に基づき、特定の流派にとらわれない柔軟な指導法を展開し、国内はもとより欧州からも生徒が集まるなど、幅広い層のヴァイオリニストの育成に尽力しています。音楽雑誌『レッスンの友』誌上では「ヴァイオリン・レッスンルーム 巨匠の伝言」を連載し、同社から映像レッスンDVDも発表するなど、教育活動は多岐にわたります。

受賞歴

キャリアを通じて、数多くの国際的なコンクールで上位入賞を果たしています。

1977年 第31回全日本学生音楽コンクール中学生の部 第1位
1980年 日本音楽コンクール 入賞
1983年 第2回ロドルフォ・リピツァー賞ヴァイオリン・コンクール 第1位
1984年 カール・フレッシュ国際ヴァイオリン・コンクール 第2位、スミス賞
1985年 ユーディ・メニューイン国際コンクール 第1位、サロン音楽特別賞
1987年 ロイヤルオーケストラ協会シルバーメダル 受賞
* 1990年 第6回パーム・ビーチ招待国際ヴァイオリン・コンクール 第1位

使用楽器と録音

メインで使用する楽器は、師であるルッジェーロ・リッチから譲り受けた1776年製のロレンツォ・ストリオーニです。この名器に加え、ジュゼッペ・アントニオ・ロッカの楽器も所有しています。弓はドミニク・ペカットの作品を主に使用。オクタヴィアレコードなどから多数のCDもリリースしており、その円熟した演奏を聴くことができます。

ヴァイオリニスト、教育者、研究者として多角的に活動する木野雅之氏は、今後も日本のクラシック音楽界を牽引していく存在であり続けるでしょう。

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