未完成作品

未完成作品とは

未完成作品とは、作者が意図的に、あるいは予期せぬ事態によって、完成させることができなかった創作物のことを指します。その形態は文学作品、音楽、美術作品、映画など多岐にわたり、それぞれの分野で特有の未完成の背景と、それが持つ意味合いが存在します。

未完成作品が生まれる理由は様々です。作者の突然の死、制作意欲の喪失、プロジェクトの巨大化による頓挫、または、意図的な中断など、様々な要因が絡み合います。作者の死によって制作が中断されるのは最も多い例ですが、中には健康状態の悪化に気づいた作者が、完成に向けてプロジェクトを企画するというケースもあります。また、作品に複数の人物が関わる場合、例えば肖像画のモデルが亡くなるなど、制作が中断せざるを得ない状況も存在します。

未完成作品の多様な側面

未完成作品は、その状態のまま公開されることもあれば、他の作者によって補完され、完成品として世に出ることもあります。中には、ドナテッロの「ノン・フィニート」の技法のように、未完成に見えて実は完成しているという芸術表現も存在します。これらの作品は、完成していたらどうなっていたのかという考察を生み出し、創造の可能性を広げる役割も果たします。

文学作品における未完成

文学の世界では、多くの著名な作家が未完成作品を遺しています。これらの作品は、遺稿として公開されたり、遺族や専門家によって整理・編集され、後世に発表されることがあります。フランツ・カフカの未完成作品が、彼の遺志に反して発表された例は、文学史における重要なエピソードとして知られています。

また、ヘミングウェイの未完成小説が死後に発表された際には、その著作権や編集方針をめぐり議論を呼びました。作者が繰り返し書き直しを続けた結果、未完成に終わる作品も存在します。マーク・トウェインの『不思議な少年』は、複数のバージョンが存在しますが、最終的に別の人物によってまとめられ、発表されました。J・R・R・トールキンの『シルマリルの物語』も、息子のクリストファ・トールキンが父の遺稿を整理・再構成し、完成させた作品として知られています。

その他、プロジェクトの規模が大きすぎて完成に至らなかった例として、ジェフリー・チョーサーの『カンタベリー物語』や、オノレ・ド・バルザックの『人間喜劇』などが挙げられます。これらの作品は未完成ではあるものの、文学史における重要な作品として評価されています。

科学、神学、哲学における未完成

宗教文学においても未完成の例が存在し、その欠落部分に対する議論が活発に行われています。マルコ福音書は未完であるという見解が一般的であり、また、バーブ教の聖典バヤーンも、教祖の死により未完となっています。

トマス・アクィナスの『神学大全』は、執筆中に神秘体験をしたことで中断されましたが、その神に関する議論は、キリスト教神学に大きな影響を与えています。哲学の分野では、プラトンの『クリティアス』が未完のまま残されています。

計算機科学においては、ジョン・フォン・ノイマンのEDVACに関する報告書の第一草稿が未完のまま世に出ましたが、その内容は後のコンピュータ開発に大きな影響を与えました。

美術作品における未完成

絵画や彫刻の分野でも、未完成の作品が数多く存在します。題材の消失、作者の病気や死など、様々な理由で作品が未完に終わることがあります。エリザベス・シューマトフによるフランクリン・D・ルーズベルトの肖像画は、ルーズベルトの死によって未完成となりました。レオナルド・ダ・ヴィンチの馬の像は、青銅が徴収されたことで制作が中断されましたが、後に資料を元に完成しています。

未完成の美術作品は、時に別の芸術家によって補完されます。ラファエロの『変容』はジュリオ・ロマーノが、ジョルジョーネの『眠れるヴィーナス』はティツィアーノが完成させたと考えられています。また、未完成作品に触発され、別の芸術家が新しい作品を生み出すこともあります。ミケランジェロの未完成作品は、多くの芸術家たちに刺激を与えてきました。

音楽作品における未完成

クラシック音楽の世界では、多くの未完成の楽曲が遺されています。作曲家の死後、他の音楽家が草稿を基に補筆することで完成されることもあります。シューベルトの「未完成交響曲」やモーツァルトの「レクイエム」は、その代表的な例です。グスタフ・マーラーの交響曲第10番も未完のまま遺され、デリック・クックなどによって補筆されています。

現代音楽においても、録音技術の発展によって、未完成のデモテープや音源から楽曲を再構築する試みが行われています。ビートルズの「フリー・アズ・ア・バード」と「リアル・ラヴ」は、ジョン・レノンの未完成音源をメンバーが補完して制作されました。

映画作品における未完成

映画制作は多くの人々が関わるため、未完成になる可能性も高いです。キャストの死、制作の遅延、予算不足などが原因で、作品が中断されることがあります。リバー・フェニックスの死によって中断された映画『Dark Blood』や、マリリン・モンローの死によって未完となった『Something's Got to Give』などがその例です。

オーソン・ウェルズの未完成映画は、伝説として語られています。彼の作品の多くは、未完のまま残されたり、制作会社によって変更が加えられました。ウェルズは、死の直前まで『The Other Side of the Wind』と『The Dreamers』の制作に取り組んでいました。

まとめ

未完成作品は、作者の意図、制作環境、予期せぬ出来事など、さまざまな要因によって生まれます。それらは、創作の過程における不確実性や、完成した作品とは異なる魅力を持つものとして、鑑賞され、研究され続けています。未完成作品は、創造の可能性を広げ、鑑賞者に多様な解釈を促す、芸術の複雑な一面を映し出す鏡のような存在と言えるでしょう。

もう一度検索