本因坊秀策

本因坊秀策：江戸時代後期を彩った囲碁界の巨星

本因坊秀策（ほんいんぼう しゅうさく）は、文政12年（1829年）に備後国（現在の広島県）で生まれ、文久2年（1862年）に34歳でこの世を去った囲碁棋士です。幼名は虎次郎、法名は日量と称しました。その短い生涯の中で、彼は囲碁界に不滅の足跡を残し、その名は今もなお、多くの人々に知られています。

生涯

1829年、秀策は桑原輪三の次男として誕生しました。1837年に江戸へ出て、本因坊丈和に入門。その才能を見抜いた丈和は、「百五十年来の碁豪」と絶賛したと伝えられています。1839年に初段、翌年には秀策と名を改め二段に昇段。その後も順調に昇段を重ね、四段まで上り詰めました。

1846年、大坂で井上幻庵因碩との対局に臨みます。当時、幻庵は八段、秀策は四段という段位差がありましたが、秀策の実力を見抜いた幻庵は、二子局から定先へと手合を変更。その中の一局「耳赤の一局」は、秀策の妙手として後世に語り継がれています。

秀策の才能を高く評価した丈和と秀和は、彼を本因坊家の跡目とすることを画策しますが、秀策は主君への忠誠心からこれを固辞しました。1848年、秀策は正式に本因坊跡目となり、六段に昇段。同時に丈和の娘と結婚し、翌年から御城碁に出仕します。

御城碁では、19戦全勝という前人未到の記録を打ち立て、秀策最強説の有力な根拠となりました。彼は、堅実で正確な形勢判断と、独自の布石法「秀策流」を駆使し、その強さを見せつけました。

しかし、1862年、江戸でコレラが流行。秀策は患者の看病にあたった結果、自らも感染し、34歳という若さでこの世を去りました。その高潔な人格と卓越した棋力は、多くの人々に惜しまれました。

秀策の碁

秀策の碁は、平明で美しい棋風が特徴です。正確な形勢判断能力に加え、独自の布石法「秀策流」は、彼の代名詞とも言えるでしょう。「秀策流」は、黒番で小目を連打する布石で、特に7手目のコスミは「秀策のコスミ」として知られています。このコスミは、現代の囲碁AIによってもその有効性が再評価されています。

「耳赤の一局」は、秀策の卓越した棋力が発揮された有名な対局です。劣勢だった秀策が、127手目に放った妙手は、対局を見ていた医師に「秀策の勝ち」と確信させたほどでした。ただし、この手については、緩手とする評価や、現代の一流棋士であれば誰でも打つという声もあり、評価は分かれています。

後世への影響

秀策は、その棋力のみならず、高潔な人格で多くの人々を魅了しました。江戸時代には道策と丈和が棋聖と呼ばれていましたが、明治以降、秀策の人気が高まり、彼が棋聖と称されるようになりました。彼の棋譜は、現代のプロ棋士にも深く研究されており、その影響は計り知れません。

また、漫画『ヒカルの碁』では、主人公に取り憑いた棋士の霊が、以前秀策に取り憑いていたという設定で登場し、若い世代にも彼の名が広く知られるようになりました。

広島県三原市には、秀策の生涯を記念した石碑が、また、因島にある生家は「本因坊秀策囲碁記念館」として、現在もその姿を留めています。これらの事からも、秀策が後世に与えた影響の大きさがうかがえます。

まとめ

本因坊秀策は、江戸時代後期に活躍した囲碁棋士であり、その卓越した棋力と高潔な人格で、多くの人々に影響を与えました。彼の残した功績は、現代の囲碁界においても、重要な遺産として受け継がれています。御城碁での19連勝、独特の布石「秀策流」、そして「耳赤の一局」は、彼の偉大さを今に伝える、数々のエピソードです。

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