札幌市交通局D1000形気動車
札幌市交通局D1000形気動車は、1958年（昭和33年）に登場した札幌市電初の路面ディーゼルカーです。将来の市電路線拡大、特に麻生町や琴似といった人口増加地域への延伸を、電力供給設備である変電所の増設に頼らずに実現することを目指し、試作車としてD1001号の1両のみが東急車輛製造で製作されました。計画では琴似方面への延伸も視野に入れられていましたが、これは最終的に実現せず、後に地下鉄東西線として建設されることになります。
外観は、当時の札幌市電の標準スタイルであった330形電車と共通の、丸みを帯びた前面1枚窓の「札幌スタイル」を採用しており、日本初の路面ディーゼルカーでありながら電車とよく似たシルエットを持っていました。ただし、屋根上の集電装置（ビューゲル）がなく排気管が立ち上がっている点や、台車間のスカートの長さ、窓柱の幅、尾灯の形状などに細かな相違点がありました。最も特徴的だったのはその走行音で、電車とは全く異なるディーゼルエンジン特有のサウンドを響かせ、警笛も電車が使用していたホイッスルではなく、自動車のような高低2音の電気式ホーンを使用するなど、他の電車の中で特異な存在感を放っていました。
技術的には、画期的な試みが多数取り入れられていました。床下中央部には、日野自動車製のバス用水平シリンダー形ディーゼルエンジン（水冷、直列6気筒、DS22形）を搭載。これにトルクコンバータと2速自動変速機を組み合わせ、片側台車の2軸を駆動する方式を採用しました。この台車には、札幌市電で初めて空気ばねが採用されています（東急車輛TS-107形）。変速機は国鉄の液体式変速機に似た構造でしたが、操作はより進んでおり、「変」（1速固定）、「中」（中立）、「自動」（常用）の3ポジションが選択可能でした。「自動」モードでは、車速や力行ノッチに応じて1速と直結段を自動で切り替える、自動車のオートマチックトランスミッションに近い制御が可能で、「変」は札幌駅構内を跨ぐ西5丁目跨線橋（通称「おかばし」）のような急勾配での使用を想定していました。DS22形エンジンは、日野のセンターアンダーフロアエンジンバスのために開発されたもので、東急車輛は同時期に製造した国鉄キハ01形レールバスでも採用していました。横形エンジン、トルコン、空気ばね台車という組み合わせは、国鉄の80系特急形気動車が登場する2年前に実現しており、片側台車2軸駆動も試作車であるキハ60形よりも早く実用化されています。これは、東急車輛がキハ01形開発時に先進的な設計を十分に盛り込めなかった経験から、本形式でその技術思想を具体化した結果とも言われています。
新製後、D1001号はまず中央車庫に配置され、各種試運転を経て1系統一条線で営業運転を開始しました。試作車ゆえに初期故障は避けられず、特に自動変速機は営業運転開始後まもなくトラブルを起こし、休車となるなど苦労もありましたが、これらの問題は一つずつ解決され、まずまずの実績を収めることに成功しました。これにより、札幌市交通局は路面気動車の本格導入へと方針を固めます。
その後、鉄北線の拠点である幌北車庫に転属。1963年11月17日の鉄北線麻生町延伸開業を待ち、後に製造された改良形（D1010形、D1020形、D1030形）と合わせて計14両の陣容で、本来の目的であった非電化区間と都心を結ぶ7系統（麻生町-すすきの間）の主力として活躍しました。当時の鉄北線北部は未舗装区間が多く、牧場のそばを土煙を上げながら走るモダンなディーゼルカーの姿は、札幌独特の光景でした。また、降雨や雪解けでレールやフランジウェイが泥で埋まっても、電車のようにレールを介した帰電が不要だったため、走行に大きな支障が出にくかった点は、非電化区間での運用において大きな利点となりました。しかし、細かな故障や整備の煩雑さは最後までつきまとい、交通局の労働組合からは度々不満の声が上がっていたとされています。
7系統は1964年12月1日には非電化のまま新琴似駅前まで延伸され、終点には簡易給水設備も設けられました。しかし、電化計画は着実に進行し、1965年には北24条-北33条間が、1967年11月1日には全線が電化されました。これにより路面気動車の存在意義は失われます。比較的経年が浅く、ラッシュ時の乗降に適した両開き中扉を持つD1030形とD1040形は残されましたが、D1000形を含む初期グループは廃車され、車体のみが電車の部品と組み合わされて再生されることになりました。
運用中にはいくつかの改造も行われました。初期には、冷却気を取り込むシュラウドが大きなゴミを吸い込んでしまうトラブルが頻発したため、バンパー下部のスカートを切り取り、シュラウドを廃止する改良が加えられました。また、騒音は予想ほどではなかったことから、室温上昇防止と整備性の向上を目的として、側面のスカートも大きく切り欠かれました。これらの改良点は、後に製造されるD1010形以降の設計にも反映されています。
鉄北線の全線電化が迫る1967年10月に廃車。車体は同時期に廃車された550形電車の電装品や台車と組み合わされ、700形703号として新たな生を受けました。この際、D1001号本来の空気ばね付き台車は廃棄され、代わりに550形が使用していた、より古い構造の台車（住友金属KS-40形）が流用されています。
主要諸元は、全長13,100mm、全幅2,230mm、全高3,350mm、自重14.5t、定員110人、搭載機関出力120ps、台車型式は東急車輛製造TS-107形でした。
外観は、当時の札幌市電の標準スタイルであった330形電車と共通の、丸みを帯びた前面1枚窓の「札幌スタイル」を採用しており、日本初の路面ディーゼルカーでありながら電車とよく似たシルエットを持っていました。ただし、屋根上の集電装置（ビューゲル）がなく排気管が立ち上がっている点や、台車間のスカートの長さ、窓柱の幅、尾灯の形状などに細かな相違点がありました。最も特徴的だったのはその走行音で、電車とは全く異なるディーゼルエンジン特有のサウンドを響かせ、警笛も電車が使用していたホイッスルではなく、自動車のような高低2音の電気式ホーンを使用するなど、他の電車の中で特異な存在感を放っていました。
技術的には、画期的な試みが多数取り入れられていました。床下中央部には、日野自動車製のバス用水平シリンダー形ディーゼルエンジン（水冷、直列6気筒、DS22形）を搭載。これにトルクコンバータと2速自動変速機を組み合わせ、片側台車の2軸を駆動する方式を採用しました。この台車には、札幌市電で初めて空気ばねが採用されています（東急車輛TS-107形）。変速機は国鉄の液体式変速機に似た構造でしたが、操作はより進んでおり、「変」（1速固定）、「中」（中立）、「自動」（常用）の3ポジションが選択可能でした。「自動」モードでは、車速や力行ノッチに応じて1速と直結段を自動で切り替える、自動車のオートマチックトランスミッションに近い制御が可能で、「変」は札幌駅構内を跨ぐ西5丁目跨線橋（通称「おかばし」）のような急勾配での使用を想定していました。DS22形エンジンは、日野のセンターアンダーフロアエンジンバスのために開発されたもので、東急車輛は同時期に製造した国鉄キハ01形レールバスでも採用していました。横形エンジン、トルコン、空気ばね台車という組み合わせは、国鉄の80系特急形気動車が登場する2年前に実現しており、片側台車2軸駆動も試作車であるキハ60形よりも早く実用化されています。これは、東急車輛がキハ01形開発時に先進的な設計を十分に盛り込めなかった経験から、本形式でその技術思想を具体化した結果とも言われています。
新製後、D1001号はまず中央車庫に配置され、各種試運転を経て1系統一条線で営業運転を開始しました。試作車ゆえに初期故障は避けられず、特に自動変速機は営業運転開始後まもなくトラブルを起こし、休車となるなど苦労もありましたが、これらの問題は一つずつ解決され、まずまずの実績を収めることに成功しました。これにより、札幌市交通局は路面気動車の本格導入へと方針を固めます。
その後、鉄北線の拠点である幌北車庫に転属。1963年11月17日の鉄北線麻生町延伸開業を待ち、後に製造された改良形（D1010形、D1020形、D1030形）と合わせて計14両の陣容で、本来の目的であった非電化区間と都心を結ぶ7系統（麻生町-すすきの間）の主力として活躍しました。当時の鉄北線北部は未舗装区間が多く、牧場のそばを土煙を上げながら走るモダンなディーゼルカーの姿は、札幌独特の光景でした。また、降雨や雪解けでレールやフランジウェイが泥で埋まっても、電車のようにレールを介した帰電が不要だったため、走行に大きな支障が出にくかった点は、非電化区間での運用において大きな利点となりました。しかし、細かな故障や整備の煩雑さは最後までつきまとい、交通局の労働組合からは度々不満の声が上がっていたとされています。
7系統は1964年12月1日には非電化のまま新琴似駅前まで延伸され、終点には簡易給水設備も設けられました。しかし、電化計画は着実に進行し、1965年には北24条-北33条間が、1967年11月1日には全線が電化されました。これにより路面気動車の存在意義は失われます。比較的経年が浅く、ラッシュ時の乗降に適した両開き中扉を持つD1030形とD1040形は残されましたが、D1000形を含む初期グループは廃車され、車体のみが電車の部品と組み合わされて再生されることになりました。
運用中にはいくつかの改造も行われました。初期には、冷却気を取り込むシュラウドが大きなゴミを吸い込んでしまうトラブルが頻発したため、バンパー下部のスカートを切り取り、シュラウドを廃止する改良が加えられました。また、騒音は予想ほどではなかったことから、室温上昇防止と整備性の向上を目的として、側面のスカートも大きく切り欠かれました。これらの改良点は、後に製造されるD1010形以降の設計にも反映されています。
鉄北線の全線電化が迫る1967年10月に廃車。車体は同時期に廃車された550形電車の電装品や台車と組み合わされ、700形703号として新たな生を受けました。この際、D1001号本来の空気ばね付き台車は廃棄され、代わりに550形が使用していた、より古い構造の台車（住友金属KS-40形）が流用されています。
主要諸元は、全長13,100mm、全幅2,230mm、全高3,350mm、自重14.5t、定員110人、搭載機関出力120ps、台車型式は東急車輛製造TS-107形でした。
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