杉原薫

杉原 薫

日本の経済史家である杉原薫（すぎはら かおる）氏は、1948年8月3日に生まれました。専門はアジア経済史であり、特にアジア地域内の貿易構造に関する研究で知られています。長年にわたり、日本の主要な学術機関である大阪大学、京都大学、東京大学で教授として教鞭を執り、研究活動を牽引しました。大学を定年退職した後も、政策研究大学院大学の特別教授を経て、総合地球環境学研究所の特任教授として研究を続けています。

学歴とキャリアの変遷

杉原氏は1967年に甲陽学院高等学校を卒業後、1971年に京都大学経済学部で学びました。大学卒業後、さらに学識を深めるため、1974年から1975年にかけてエディンバラ大学経済史学部へ留学しました。帰国後、東京大学大学院経済学研究科博士課程に進みましたが、1976年に単位取得の上で退学しています。大学院を離れた後、短期間ではありますが、丸紅のダブリン事務所での勤務を経験しています。

その後、研究者の道に戻り、1978年に大阪市立大学経済学部の助手に着任しました。大阪市立大学では、1981年には助教授に昇任しています。国際的な学術交流にも積極的に参加し、1985年からはロンドン大学東洋アフリカ研究学院（SOAS）の歴史学部で講師を務め、1991年には上級講師となりました。

1996年には大阪大学経済学部の教授に就任し、同年には東京大学から博士（経済学）の学位を取得しています。博士論文の題目は、その後の研究の柱となる「アジア間貿易の形成と構造」でした。1997年には大阪大学大学院経済学研究科教授となり、研究・教育活動を展開しました。2006年には京都大学東南アジア研究所へ移り、2012年からは再び東京大学大学院経済学研究科の教授を務めました。2013年に東京大学を定年退職した後は、政策研究大学院大学政策研究科の教授、翌2014年には特別教授に就任。2016年からは総合地球環境学研究所の特任教授として、現在も精力的に研究を続けています。

研究活動と貢献

杉原氏の最も重要な貢献の一つは、1980年代半ばに提唱した「アジア間貿易」論です。これは、欧米中心の貿易史観に対し、アジア域内で行われていた独自の貿易システムとその歴史的意義を明らかにするもので、その後のアジア経済史研究に大きな影響を与えました。博士論文のテーマともなったこの研究は、広く国際的にも評価されています。近年では、個別の地域史や国民国家史の枠を超え、より広範な視点から歴史を捉えるグローバルヒストリー研究にも力を入れています。

家族と学術的背景

杉原氏の家族には、学術分野で活躍する人物がいます。父である杉原四郎氏は経済学史の研究者であり、弟の杉原達氏は歴史学者です。また、妻の長崎暢子氏も歴史学者として知られており、家族ぐるみで学術研究に深く関わっている背景があります。

受賞歴と主要著作

長年の研究活動に対し、杉原氏は複数の著名な賞を受賞しています。1996年には、主著である『アジア間貿易の形成と構造』が、日本経済新聞社から経済図書文化賞を、またサントリー学芸賞（社会・風俗部門）を受賞しました。2021年には、『世界史のなかの東アジアの奇跡』により、優れた著作に贈られる第33回アジア・太平洋賞の大賞を受賞しています。

杉原氏の主要な著作には以下のものがあります。

単著
『アジア間貿易の形成と構造』（ミネルヴァ書房, 1996年）
『アジア太平洋経済圏の興隆』（大阪大学出版会, 2003年）
『世界史のなかの東アジアの奇跡』（名古屋大学出版会, 2020年）
共著
宮本又郎・服部民夫・近藤光男・加護野忠男・猪木武徳・竹内洋との共著『日本型資本主義――どうなるどうする戦略と組織と人材』（有斐閣, 2003年）
編著
Japan, China, and the Growth of the Asian International Economy, 1850-1949, (Oxford University Press, 2005).
共編著
玉井金五との共編『世界資本主義と非白人労働』（大阪市立大学経済学会, 1983年）
玉井金五との共編『大正・大阪・スラム――もうひとつの日本近代史』（新評論, 1986年／増補版, 1996年）
J.A. Allanとの共編 Japan in the Contemporary Middle East, (Routledge, 1993).

これらの著作は、杉原氏のアジア経済史およびグローバルヒストリー研究における重要な成果を示しています。

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