李遠 (明)

李遠（り えん、1364年 - 1409年）は、明代初期の軍人であり、その生涯は激動の時代と深く結びついています。本貫は濠州懐遠県にあり、父の跡を継いで蔚州衛指揮僉事となりました。彼の軍人としてのキャリアは、1399年（建文元年）に勃発した靖難の変によって大きく転換します。

翌1400年1月、燕王朱棣の軍勢が蔚州に侵攻すると、李遠は城を明け渡し降伏しました。当時、建文帝側の軍は徳州に駐屯しており、徐州沛県との間で兵糧を輸送していました。李遠はこの状況を利用し、1401年（建文3年）、偽って敵軍の鎧を着用し、背中に柳の枝を差して味方の目印とした軽兵6000を率いて南下しました。済寧・沙河を経て沛県に到着しましたが、敵に気づかれることはありませんでした。彼は兵糧を積んだ舟を焼き払い、引き返します。この奇襲に対し、建文帝側の将軍である袁宇が3万騎を率いて追撃してきましたが、李遠は伏兵を用いてこれを撃退しました。これにより、李遠は卓越した戦術家としての頭角を現し始めます。

1402年1月、燕王朱棣の軍が蠡県に進軍すると、李遠は斥候を派遣しながら槁城に進みました。徳州の将軍、葛進が1万余りの兵を率いて凍結した滹沱河を渡って進軍してきたため、李遠はこれを迎え撃ちます。葛進は馬を林間に繋ぎ、歩兵による接近戦を挑んできました。李遠はわざと退却するふりをし、密かに兵を分けて葛進の後方に出ました。そして、繋がれていた馬を解放した後、再び戦いを挑みました。馬を失った葛進軍は大敗を喫し、李遠は敵兵4000人を斬首、馬1000頭を鹵獲するという大戦果を挙げました。この勝利に対し、燕王朱棣は李遠の武勇を古代の名将に匹敵すると絶賛しました。

その後も、李遠は淮水方面への斥候派遣や、淮水を守る建文帝側の将士を撃破するなど、数々の功績を重ねました。これらの功績により、都督僉事に任命され、安平侯に封じられ、伯爵を世襲する権利を与えられました。1403年（永楽元年）には、武安侯鄭亨とともに宣府の守備を任されました。

1409年（永楽7年）、李遠は右参将として丘福に従い、塞北遠征に参加しました。ヘルレン川に到達した際、北元軍の偽装退却を見破り、深入りを諫めましたが、丘福は聞き入れませんでした。遠征軍はオルジェイ・テムルの軍に包囲され、窮地に陥ります。李遠は500騎を率いて敵陣に突撃し、数百人を討ち取りましたが、馬が倒れて捕えられました。彼は捕らえられても敵を罵り続け、その忠義を貫き通し、最終的に殺害されました。享年46歳、死後、莒国公を追封され、諡は忠壮とされました。

李遠の子である李安もまた、軍人としての道を歩みました。安平伯の爵位を継ぎ、1425年（洪熙元年）には交趾参将に任命されました。しかし、規律違反により事官に降格され、その後も王通に従って交趾を放棄して北京に戻ると、獄に下され、鉄券を奪われ赤城に流されました。赤城では武功を挙げ、1435年（宣徳10年）に英宗が即位すると、都督僉事として起用されました。アダイ・ハーンとドルジ・ベクを討ち、都督同知、総兵官と昇進を重ね、松潘に駐屯しました。1441年（正統6年）には定西伯蒋貴を補佐して麓川に遠征し、潞江に軍を駐屯させて補給部隊を護衛しましたが、戦功を焦り高黎貢山に拠る反乱軍の残党を攻撃し、大敗を喫しました。その罪により獄に下され、独石に配流され兵役についた後、ほどなくして死去しました。李安の子、李清は都指揮同知となりました。李遠の一族は、軍人としてその名を歴史に刻み、その忠義と武勇は後世に語り継がれています。

参考文献: 『明史』巻145 列伝第33

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