村山団地

東京都武蔵村山市緑が丘に位置する都営村山団地は、広大な敷地を擁する都内有数のマンモス団地であり、その中でも最大規模を誇ります。団地の建設に伴い「緑が丘」という新たな町名が生まれ、現在ではその町域全体が団地となっています。町名制定にあたっては、当時の住民投票が反映されたという歴史があります。

この団地は、高度経済成長期の東京圏への人口集中に対応するため、住宅と公共施設を一体的に整備し、良好な住環境を短期間で大量に供給することを目指して計画されました。特に、近隣にあったプリンス自動車工業、後に日産自動車村山工場の労働者を受け入れる役割を担っており、団地の歴史は工場の盛衰とも密接に関わっています。

建設は1964年（昭和39年）に始まり、わずか3年の突貫工事を経て1967年（昭和42年）に完成。1966年（昭和41年）から入居が始まりました。完成時の総戸数は5,260戸に及び、5階建てのアパートを中心に424棟が立ち並ぶ壮観な光景が見られました。敷地面積は約55.3ヘクタールにも及びます。

団地の入居開始は、当時の北多摩郡村山町に劇的な人口増加をもたらしました。入居前の1965年には1万4千人ほどだった町の人口は、1970年には4万人を超えるまでに膨れ上がり、同年11月3日の市制施行（武蔵村山市発足）へと繋がる大きな要因となりました。団地のある緑が丘地区と、隣接する学園・大南地区は、現在も市内人口の約4割を占める主要な居住エリアです。

武蔵村山市は武蔵野台地上にあり、比較的なだらかな地形が特徴です。村山団地周辺も平坦であり、これが後述する商店街の高齢者向け送迎サービスにとって好条件となりました。北側には多摩湖や西武ドーム周辺の緑地が広がっています。

市内に鉄道駅がない武蔵村山市において、村山団地は交通の要衝でもあります。主要なアクセス手段はバスで、立川駅や玉川上水駅への路線が団地エリアを経由しています。団地の周囲には「団地東通り」「団地西通り」「湖南通り」「大南通り」といった幹線道路が整備されており、これらはバス路線として機能し、沿線には商店が集積しています。団地内には「村山団地中央商店街」があり、周辺にはアーケード付きの「村山すずらん通り」や「村山アメ横通り商店街」なども形成されています。

しかし、時代の変化と共に団地の人口構成は変化しました。日産自動車村山工場の閉鎖（2001年）による地域経済への影響に加え、少子高齢化や都心回帰傾向により、団地の人口は減少傾向にあります。特に高齢化は著しく、2017年（平成29年）時点では居住者の約半数が高齢者であり、後期高齢者も約3割を占める超高齢化団地となっています。

こうした状況に対応するため、老朽化と住民の高齢化（バリアフリー対応など）を理由とした大規模な建て替え事業が1997年（平成9年）から段階的に進められています。当初の計画（中期計画）に続き、2016年（平成28年）からは後期計画が始まり、2030年度まで工事が継続される予定です。建て替えにより建物は高層化され、建設当初はなかった駐車場も整備されています。

建て替えによって住環境が大きく変わる中、特に影響を受けたのが初期からの居住者が多かった低層棟の高齢者です。高層階への移転や商店街からの距離増加により、外出が億劫になるケースが増えました。さらに、2000年代に市内に大型ロードサイド店舗（ダイエー、イオンモールむさし村山など）が開業したこともあり、団地内商店街の客足は遠のきました。

この状況に対し、村山団地中央商店会は積極的な取り組みを展開しています。2007年（平成19年）には宅配事業を開始し、これが団地の高齢者の見守り活動へと繋がりました。さらに、「商店街で買い物をしたい」という高齢者の声に応えるため、2009年（平成21年）からは電動アシスト三輪自転車を改造した屋根付きの送迎自転車「むさむら号」による無料送迎サービスを開始しました。地元の技術を結集した改良版も導入され、現在2台体制で運行されています。この事業は市の補助金や地域ボランティアの協力で成り立ち、商店主らが利用者とのコミュニケーションを通じて高齢者の状況を把握し、地域包括支援センターと連携する重要な見守り拠点ともなっています。この成功事例は、他の高齢化が進む大規模団地にも波及効果をもたらしています。

一方で、団地全体の建て替え計画により、村山団地中央商店街自体の将来的な取り壊しも決まっています。商店街の存続は未定であり、長年地域を支え、高齢者の見守り拠点となっている商店街の行方が注目されています。

建て替え工事の進捗に伴い遊休地となった敷地の一部では、2012年度から「ひまわりガーデン武蔵村山」が開園し、都内最大級のひまわり畑として多くの来訪者を集め、地域の活性化に貢献しましたが、こちらも暫定管理期間の終了に伴い2022年夏に閉園しました。

また、団地近隣には国立感染症研究所村山庁舎があり、ここに設置された高レベル安全実験室（BSL-4施設）を巡っては、1980年代にその危険性から団地住民を中心とした強い反対運動が起こり、長らく施設の運用が見送られたという歴史があります。その後、国際的な感染症対策の必要性から日本初のBSL-4施設として指定されましたが、将来的な移転が検討されています。

このように、村山団地はその誕生から現在に至るまで、日本の社会や地域の変遷と共に歩んできた、多様な側面を持つ大規模団地と言えるでしょう。過去には映画のロケ地としても使用されるなど、その存在は文化的にも記録されています。

もう一度検索