東急300系電車

東急300系電車は、1999年7月11日に営業運転を開始した東急電鉄の軌道車両です。世田谷線で活躍するこの車両は、2両編成10本（20両）が在籍しています。

概要

老朽化したデハ70形、デハ80形、デハ150形の置き換え、バリアフリー化、冷房化を目的に世田谷線向けに製造されました。2車体3台車の連接車であり、東急ではデハ200形以来の連接台車の導入となりました。「やさしい空間づくり」をコンセプトに設計され、乗客からの要望と乗務員・検修員の操作性や作業性が考慮されています。2001年2月11日にデハ150形の営業運転が終了し、世田谷線の全車両が300系に統一されました。

車両概説

車体

3台車2車体で、A車とB車の2両からなる連節構造を採用しています。これにより、車両間の往来が可能になりました。車体はセミステンレス構造で、腐食が懸念される箇所にステンレスを使用し、その他の部分は鋼製となっています。車体幅は2500mmですが、ホーム屋根との間隔を確保するため屋根に向かって50mm絞られています。前面部は傾斜が付いた1枚ガラスで、側面の視界確保のために前面のガラスを回り込ませています。防曇ガラスやデフロスターの採用により、視界の確保と安全性の向上を図っています。側面窓は下段が大型の固定式、上段が内開き式となっており、熱線吸収のスモークガラスを採用したカーテンレス構造です。

前面にはLED式の行先表示器、各乗降口にはLED式の出入口案内表示器が設置され、日本語・英語が交互に表示されます。行先表示には運用番号も同時に表示されます。登場当時は各駅のホームを嵩上げする前だったため、301F - 306Fには1段のドアステップと床下格納型の車いす昇降装置が設置されていましたが、ホーム嵩上げの際にステップが廃止され、乗降口がフラットになりました。307F以降の編成はドア下部の形状が異なっています。

台車・機器

台車はデハ70形・80形の廃車時に使用されていた旧品（1994年製）を再利用しています（310Fのみ新製）。基本構造はM台車・T台車共に同一の軸箱守（ペデスタル）の軸ばね方式ですが、T台車は中間連節部心皿対応用に改造されました。M台車はTS-332形、T台車はTS-332T形を採用しています。車輪直径は660mmで、M台車・T台車共に基礎ブレーキ装置は片押し式踏面ブレーキです。

東急の車両としては初めて、三菱電機製のVVVFインバータ装置を採用しました。制御方式はIGBT素子を使用した3レベルのPWM方式VVVFインバータ制御で、装置はA車に搭載されています。この制御装置は編成で4台搭載されている主電動機を2群ずつ制御することにより低騒音化を図っています（1C2M2群制御）。ブレーキ方式はHRDA-2方式の回生ブレーキ・発電ブレーキ併用デジタル指令・アナログ変換式の電気指令式空気ブレーキ装置（保安ブレーキ付き）です。301F - 304Fの電気ブレーキはデビュー当初、回生ブレーキのみでしたが、後に回生・発電ブレーキ併用改造が行われました。これらの編成はホーム嵩上げ前の登場で、ドアステップと車いす昇降装置が設置されていたため改造用のスペースが取れず、ブレーキ改造工事の際にA車先頭部屋根に空気だめが設置されています。

A車とB車に1台ずつパンタグラフを搭載しています。着雪対策としてシングルアーム式が採用されており、積雪時の制動能力の向上を図るために増粘着剤噴射装置を備えています。

車内

A車・B車共に自車の運転台に向かって1人掛けの席が設置されています。ポリエステル製で、オレンジとブラウンを交互に配色しています。立席の乗客用にスタンションポールを設置しています。座席形状・座席配置は301F - 304Fと305F - 310Fで異なり、301F - 304Fはシートピッチが若干広めで2人掛け席はなく、305F - 310Fはシートピッチが狭いため椅子に膝を入れるスペースがあり、2人掛け席があります。室内のカラーリングは10編成で3パターン存在しましたが、2013年度から順次張り替えられ、東横線用5050系従来柄と同じものに統一されました。2019年頃から一部の編成にて背面クッションの交換が行われています(301F、302F、304F、305F)。

各車両に車椅子スペースが設置されており、そのスペースの座席は折りたたみ式となっています(301F-304Fはペダル式、305F - 310Fは手動折りたたみ式)。非常通報装置も設置されています。客用扉はバス型電気式の両開きプラグドアで、開口部は1250mm確保されています。各扉上にドアチャイムが設置されています。運転室背面と車内妻面にはLED2段式の旅客案内表示器が設置され、日本語と英語による案内や時刻表示、各種PR放送に対応した案内がされます。車内放送装置として自動放送装置がB車に搭載されていますが、英語放送はありません。つり革の形状は六角形です。

車内には路線バスと類似した運賃箱とPASMOの読み取り機があり、無人の中間駅では乗車時に運賃を支払います。せたまる廃止前まではせたまる定期券・回数券の読み取り機も設置されていましたが、せたまる廃止後に撤去されています。室内の号車表示や製造銘板などはアクリルからシールになり、「東急車両 2000年」のように西暦で書かれています。空調装置は、集中式冷房装置と温風ヒータ、シーズワイヤ型ヒータ装置が設置されています。

運転室は料金箱と運転席の間隔を設け、運転台の位置を中央からずらすことにより居住空間を広く確保しています。マスコンは、T形ワンハンドルマスコンを採用しており、運転台のコンソールには扉操作スイッチや自動放送装置などが集約されています。車内モニタを設置し、車内の乗降口付近の状況が把握できるようになっています。料金収受に対応するために運転席は回転可能です。

車体色

全編成で塗装が異なっており、特に以下の編成は特筆されます。

301F: かつて『サザエさん』のラッピングが施されていましたが、デハ200形の登場50周年を記念して玉電色に変更されました。
310F: 玉電開通100周年と新玉川線開業30周年を記念して、ヘッドマークが装着され、花電車のラッピングが施されました。
305F: 玉電開通110周年を記念し、開業当初の狭軌木造単車をイメージしたラッピングが施されました。
308F: 玉電開通110周年記念として、豪徳寺と協力し「玉電110周年幸福の招き猫電車」として招き猫をデザインしたラッピングが施され、内装にも猫の足跡や招き猫をイメージした吊り手が導入されました。
* 307F: 「SDGsトレイン美しい時代へ号」と称したラッピング電車となっています。

運用

1999年に登場し2001年までにデハ150形などを置き換えました。現在も全編成が稼働しています。

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