鵜殿松平家

鵜殿松平家

鵜殿松平家は、三河国を発祥とする松平氏の庶流の一つとされています。十八松平の一つに数えられることもありますが、不明な点が多く、その出自や存在自体がはっきりしていません。

鵜殿松平家の出自に関する二つの説

鵜殿松平家の出自については、主に以下の二つの説が存在します。

松平康孝を祖とする説: 松平氏宗家6代当主・松平信忠の子で、松平清康の弟にあたる松平康孝（十郎三郎）を鵜殿松平の祖とする説です。
松平信次を祖とする説: 五井松平家4代当主・松平忠次（弥九郎・外記）の弟・信次（長左衛門）の子孫が、外戚である鵜殿氏を称したとする説です。

松平康孝を祖とする説

この説では、天文12年（1543年）に三木松平家の松平信孝（蔵人佐）が岡崎松平家の策謀によって追放された際、その理由の一つとして、信孝が弟である松平康孝の遺領を横領したことが挙げられています。このことから、康孝には後継者がおらず、兄の信孝がその遺領を併合したと推測されています。

しかし、康孝の遺領は三木の地であったとされ、兄・信孝が三木領を所有したのはこの併合時からとされています。康孝は信孝以前に三木郷の領主であったものの、彼の居城は同国浅井村（現・西尾市）にあったとされ、「鵜殿」を称する根拠となる史料は確認されていません。そのため、鵜殿松平家の存在自体に疑問を呈する見方もあります。

康孝の子に松平康定（八郎三郎）がいたという説もありますが、この康定についても詳細は不明です。なお、同時期に深溝松平家2代当主・松平好景の弟に松平康定（勘解由左衛門）がおり、弘治2年（1556年）または永禄4年（1561年）の吉良義昭との戦いで好景以下、兄弟5人・親族20余名が戦死したとされています。しかし、この康定は戦死を免れたらしく、後に深溝の松平家忠の日記に松平勘解由左衛門の名で頻繁に登場します。

松平信次を祖とする説

この説では、五井松平家4代目の松平忠次（外記）の弟・信次（長左衛門）の子孫が、外戚である鵜殿氏を称したとされています。信次は、松平信孝と宗家・松平広忠との戦いとなった天文16年（1547年）の渡理河原合戦に宗家側として参戦し、兄の忠次が戦死したため、忠次の遺児・景忠を後見したとされています。この信次の子孫が鵜殿氏を称し、五井家の家臣になったとされています。また、五井松平家5代目の景忠は、弟・正幸（新兵衛）にも五井家の家臣として鵜殿氏を名乗らせています。

鵜殿氏との関係

五井松平家の2代当主・松平元心の次男・忠定は深溝松平家の初代となりましたが、五井家も深溝家もその根拠地は現在の蒲郡市域およびその近隣にありました。この地域は、三河国宝飯郡西郡（蒲郡市に含まれる旧地名）一帯の国人領主であり、今川氏の家臣でもあった鵜殿氏（上郷・下郷・柏原など）の支配地の近隣に位置していました。

鵜殿氏と松平氏の間には、婚姻関係などの関連性が認められます。例えば、深溝松平忠定の孫・伊忠は、上郷（神郷）城主・鵜殿長持の次女を妻に迎えています。また、下郷鵜殿氏（蒲形城主）の鵜殿長存の孫（または曾孫）にあたる鵜殿康孝（長信）は、深溝の伊忠の次女を妻に迎えています。

まとめ

鵜殿松平家は、その出自や実態について不明な点が多い家系です。松平康孝を祖とする説と松平信次を祖とする説がありますが、いずれも確たる証拠に欠けています。鵜殿氏との婚姻関係など、周辺の状況から推測するしかなく、今後の研究が待たれるところです。

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