松平忠喬

松平忠喬（まつだいら ただたか）

松平忠喬は、江戸時代前期から中期にかけて活躍した大名であり、桜井松平家の10代当主です。信濃国飯山藩の第2代藩主、遠江国掛川藩主を経て、1711年に摂津国尼崎藩主となり、以降、桜井松平家は7代160年にわたり尼崎を治め、廃藩置県を迎えることになります。

生涯

忠喬は飯山藩世嗣であった松平忠継（藩主・松平忠倶の子）の二男として生まれました。『寛政重修諸家譜』によれば天和2年（1682年）生まれとされますが、家臣の家に伝わる史料では天和3年（1683年）1月9日生まれと記録されており、幕府には実年齢より年長に届けられたと考えられています。

元禄7年（1694年）12月、父・忠継が病気を理由に廃嫡されると、忠喬の兄・忠敏が飯山藩の世嗣となりました。元禄8年（1695年）2月には祖父を継ぐべき「嫡孫」として幕府に認められますが、同年12月に24歳で早世してしまいます。そのため、忠喬に世嗣の座が回ってきました。元禄9年（1696年）5月26日に大坂加番を務めていた祖父が任地大坂で死去し、7月25日に忠喬が15歳（公式年齢）で藩主を継ぐこととなります。将軍への御目見や世嗣としての任官を済ませていなかったため、7月28日に綱吉に御目見し、家督相続を謝しました。この際、綱吉に父の遺品である越中則重の刀、御台所に一条冬良筆の『古今和歌集』、桂昌院に足利義政筆の『和漢朗詠集』をそれぞれ献上しています。同年12月22日、従五位下遠江守に任官しました。

大名となった忠喬は、その多くを江戸で過ごし、初めて領地（飯山）に入ったのは元禄13年（1700年）のことでした。江戸滞在中には将軍の外出への供奉や、各種の普請、西之丸大手御門番などの役を務めました。また、幕命により朝鮮通信使の接待役、日光東照宮の警護役なども務めています。

宝永3年（1706年）1月28日、遠江掛川藩に移封され、宝永8年（1711年）2月11日には摂津尼崎藩に移封されました。尼崎藩主となった桜井松平家の菩提寺となる深正院（尼崎市大物町）は、正徳元年（1711年）に忠喬が尼崎に建立したと伝えられており、寺の名は大坂で死去した祖父・忠倶の法名の院号にちなんでいます。

享保2年（1717年）1月22日の大火（小石川馬場火事）に際しては、防火の任務を与えられていたため、自ら家臣を指揮し、後に家臣が老中に呼ばれて労を賞されています。寛延3年（1750年）12月18日、従四位下に昇叙されました（桜井松平家で唯一の事例）。寛延4年/宝暦元年（1751年）3月20日に致仕し、同21日に石見守に遷りました。

家督は次男・忠名が継ぎました。宝暦6年（1756年）2月5日、尼崎において死去。享年74歳（「公式年齢」では75歳）。深正院に葬られました。

系譜

特記事項のない限り、『寛政重修諸家譜』に基づきます。子の続柄の後に記した ( ) 内の数字は、『寛政譜』の記載順です。

父：松平忠継
母：本多康将娘
正室：戸田忠真娘
二女(2)：毛利広豊室
三女(3)：松平親純室
二男(6)：松平忠名 - 実は側室の所生とされる（後述）
七女(9)
生母不明の子女
長女(1)：喜連川茂氏室
八女(10)
側室：某氏
長男(4)：勝千代 - 早世
四女(5)
側室：某氏
五女(7)：三宅康高室
六女(8)：安部信平婚約者、早世
側室：岩崎氏
九女(11)：安部信平室、離縁ののち松平昌信室
十女(12)
十一女(13)：飛鳥井雅重室
側室：土屋氏
三男(14)：松平忠義

補足

継嗣となった松平忠名は、『寛政譜』では正室戸田氏の所生とされていますが、『図説 尼崎の歴史』では側室の所生とされています。岩城卓二は、忠喬の「正室の子とわかるのは女子3人です」とし、「側室の子が当主になるのは決して珍しいことではありませんでしたが、幕府に提出する公式記録などでは側室ではなく正室の子として記録されていることも少なくありません」と指摘しています。

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