松本たかし

松本たかし

松本たかし（1906年1月5日 - 1956年5月11日）は、東京都出身の俳人です。本名は松本孝。能楽師の家に生まれ、幼い頃から能を志しましたが、病のため断念。その後、高浜虚子に師事し、俳句の世界に専心しました。俳誌「笛」を創刊・主宰し、芸術性の高い高雅な句を作り続けたことで知られています。

生涯

東京市神田区猿楽町（現在の千代田区猿楽町）で、代々江戸幕府に仕えた宝生流能役者の家に長男として生まれました。父は能楽師の松本長、弟の松本惠雄も能楽師となり、後に人間国宝に認定されています。作家の泉鏡花は親戚にあたります。

満5歳から能の修行を始め、錦華小学校卒業後は、自宅で漢学や国文学を学びつつ能の修行に専念しました。しかし、1920年に14歳で肺尖カタルと診断され、静岡県静浦で療養することになります。療養中、見舞いに来た父が置いていった「ホトトギス」を読んだことがきっかけで俳句に興味を持ち始め、1922年には父の能仲間の句会「七宝会」に参加。翌年からは高浜虚子に師事し、本格的に俳句を学び始めます。

1924年頃から神経衰弱に悩まされるようになり、1926年には療養を兼ねて鎌倉市浄明寺に移住。同年6月には、「ホトトギス」に療養中に詠んだ句が4句入選し、これを機に能役者としての道をほぼ諦め、俳句に専念する決意を固めます。1929年には「ホトトギス」の巻頭を飾り、23歳という若さで同人に推されました。この頃から、派遣看護婦であった高田つや（俳号：松本つや女）と夫婦生活に入ります。1931年には、川端茅舎、高野素十と知り合い、親交を深めました。1935年には父が脳溢血で亡くなり生活が困窮しましたが、虚子から与えられた仕事が生活の支えとなりました。

1945年、岩手県稗貫郡へ疎開。1946年には島村茂雄の援助を受け、俳誌「笛」を創刊・主宰し、上京後は杉並区久我山に定住しました。その後、「笛」に「茅舎研究」を連載。1948年には、能の師であった宝生九郎をモデルにした伝記小説『初神鳴』を「苦楽」に発表。この小説は、後に伊藤大輔監督によって『獅子の座』として映画化されています。

1954年には、第四句集『石魂』で第5回読売文学賞（詩歌俳句賞）を受賞。

1956年2月、軽い脳溢血を起こし言語喪失状態となり、句作が途絶えました。「避けがたき寒さに坐りつづけをり」が最後の句となりました。同年5月11日、心臓麻痺により久我山の自宅で死去。墓所は三浦市本瑞寺にあります。戒名は青光院釈一管居士。没後、『松本たかし句集』や『たかし全集』（全4巻）などが刊行されています。

句集

第一句集『松本たかし句集』（1935年）
第二句集『鷹』（1938年）
第三句集『野守』（1941年）
第四句集『石魂』（1953年）
第五句集『火明』（1957年）

作風と評価

松本たかしは、高浜虚子から「只管写生」の教えを受けつつ、能で培った美意識に支えられた典雅で格調の高い句を作りました。代表句として、

チヽポヽと鼓打たうよ花月夜
春月の病めるが如く黄なるかな
海中に都ありとぞ鯖火燃ゆ
夢に舞ふ能美しや冬籠
水仙や古鏡のごとく花をかゝぐ
雪だるま星のおしやべりぺちやくちやと

などがあります。

川端茅舎からは「生来の芸術上の貴公子」と評され、互いに傾倒しあったことから「句兄弟」と呼ばれました。茅舎と同様に比喩を用いた句を多く作りましたが、その感覚はより感覚的であると評されています。

参考文献

朝日新聞社編 朝日文庫 現代俳句の世界『川端茅舎松本たかし集』朝日新聞社、1985年
上村占魚編著 昭和俳句アルバム27『松本たかしの世界』梅里書房、1989年
山本洋子編 『松本たかし』 蝸牛俳句文庫、1997年
上村占魚著『松本たかし俳句私解』紅書房、2002年
稲畑汀子・大岡信・鷹羽狩行監修 『現代俳句大事典』 三省堂、2005年

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