板垣與一

板垣與一（いたがきよいち、1908年 10月15日 - 2003年 8月28日）は、日本の経済学者、国際政治学者です。富山県に生まれ、東京商科大学（現在の一橋大学）を卒業後、同大学を中心に研究活動を行いました。戦前は植民地政策を研究し、南方軍占領地の軍政に関与。戦後はアジア政治経済を研究し、アジア経済研究所の設立を提言するなど、学術界に大きな貢献をしました。

生い立ちと学歴

1908年、富山県射水郡新湊町（現在の射水市）で漁師の家に生まれました。1921年に富山県立高岡甲種商業学校（現在の富山県立高岡商業高等学校）に入学。1926年には小樽高等商業学校に無試験で入学し、手塚寿郎のゼミで学びました。その後、東京商科大学に進学し、中山伊知郎のゼミで経済学を学びました。1932年に同大学を卒業後、研究科に進みましたが、1933年に中退し、同大学の助手となりました。

戦前・戦中の活動

1935年、東京商科大学の助手、1940年には助教授に昇格。大学では植民地政策や商業政策を担当しました。1940年からは同大学附属商学専門部教授も兼務。また、同年から海軍省調査課の嘱託となり、東南アジア各地を調査しました。1942年からは東京商科大学東亜経済研究所の研究員も兼任。同年、南方軍軍政総監部調査部付となり、シンガポール、ジャワ島、マレーシアなどで軍政に関わりました。特に、マレーシアでは、マレー人の民族団体組織化を指導し、将来的な自治を目指すKRIS運動を発足させました。1945年、終戦をイポーで迎え、その後、マラリアに罹患し、1946年に復員しました。

戦後の活動

1949年、一橋大学教授に就任し、経済政策や世界経済論を担当。1957年には経済学部長兼大学院経済学研究科長を務めました。同年、岸信介首相にアジア研究所の設立を進言し、1958年に財団法人アジア経済研究所が設立されると、調査担当理事に就任しました。1962年、学位論文『アジアの民主主義と経済発展』で経済学博士号を取得。1972年に一橋大学を定年退職し、名誉教授となりました。

退職後は、貿易研修センター理事・教学長、亜細亜大学教授、経済学部長などを歴任。1988年には八千代国際大学（現在の秀明大学）の初代学長に就任しました。晩年は東京都練馬区に住み、2003年に膵臓癌のため死去しました。

学会活動と受賞

板垣與一は、経済社会学会会長などを務め、アジア政経学会名誉会員、日本経済政策学会名誉会員、日本国際政治学会名誉理事など、数多くの学会で要職を歴任しました。1962年には『アジアの民族主義と経済発展』で日経・経済図書文化賞を受賞。1980年には勲二等瑞宝章を受章しています。

研究内容と業績

板垣與一の研究は、植民地政策、アジアの政治経済、ナショナリズムなど多岐に渡ります。特に、戦後のアジアにおける経済発展と民主主義の関係に着目し、その研究は、後のアジア研究に大きな影響を与えました。

門下生

板垣與一は、多くの人材を育成しました。主な門下生には、大川政三（一橋大学名誉教授）、松田賀孝（琉球大学名誉教授）、間苧谷榮（亜細亜大学教授）、長尾眞文（広島大学名誉教授）などがいます。また、ゼミ生には、鈴木典比古（経営学者）、竹原茂（経済学者）、内藤能房（経済学者）、三枝匡（経営コンサルタント）、岡本毅（元東京ガス社長）、岡本行夫（外交評論家）、重家俊範（元駐韓国大使）、辻本甫（元駐アラブ首長国連邦大使）、小野正昭（元駐メキシコ大使）など、各界で活躍する人材を輩出しました。

家族

妻は実業家の瓜谷長造の長女。長男の板垣哲史はディーラー、孫の菊川曉は実業家。娘婿の早瀬勇は実業家で金沢星稜大学の学長を務めました。

著作

主な著作には、『政治経済学の方法』（1942年）、『世界政治経済論』（1951年）、『アジアの民族主義と経済発展‐東南アジア近代化の起点』（1962年）、『現代ナショナリズム‐視点と方法』（1985年）などがあります。

外部リンク

板垣與一記念館

参考文献

辛島理人『帝国日本のアジア研究：総力戦体制・経済リアリズム・民主社会主義』明石書店、2015年。
フォーラム編『日本の英領マラヤ・シンガポール占領 : 1941～45年 : インタビュー記録』龍溪書舎、1998年。
間苧谷栄「板垣與一先生のご退任を惜しんで」『亜細亜大学経済学紀要』第11巻第2号、亜細亜大学経済学会、1986年。
亜大紀要「板垣與一先生略歴・主要著作目録」『亜細亜大学経済学紀要』第11巻第2号、亜細亜大学経済学会、1986年。
板垣与一、山田勇、内田直作「板垣与一氏・山田勇氏・内田直作氏インタヴュー記録」『インタヴュー記録Ｄ．日本の軍政』東京大学教養学部国際関係論研究室、1981年。
「名誉教授板垣與一年譜」日本評論社、1972年。

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