板持鎌束

板持 鎌束について

板持鎌束（いたもち の かまつか、生没年不詳）は奈良時代に活躍した貴族であり、音楽史においてもその名を残しています。彼の氏族は板振あるいは板時とされ、名は鎌末とも記録されています。また、官位は正七位下・左兵衛であったと考えられています。

出自と氏族の背景

板持鎌束は記録によると、様々な表記がなされており、『続日本紀』では「板振鎌束」と、また『新撰楽譜』では「板時鎌束」とされています。この名称の混同については、1960年に林謙三が指摘しており、同一人物の可能性が考慮されています。さらに、佐伯有清は「板振」という氏族が他に見受けられないことから、古典文献の注記を元に「板振」は「板持」の誤記であり、板茂（板持）連の一族であると考えました。

板持氏は唐系の渡来氏族であり、その出自は河内国錦部郡板持村（現在の大阪府河内長野市千代田）に由来します。712年、板持内麻呂らは史姓から連姓に改姓することを決定したことも、歴史的な記録として重要です。

経歴と渤海との関わり

天平宝字6年（762年）11月、板持鎌束は渤海使の大使である王新福を帰国させるために、第七次遣渤海使の使節に任命されました。しかし、送使判官・平群虫麻呂は王新福が乗る船が劣化していることを懸念し、上申しました。そのため、日本側は多治比小耳などの派遣を中止し、船の修理をした上で、鎌束を船師として渤海へ向かわせることになりました。鎌束の官位は正七位下・左兵衛でしたが、この任務の際には「佐」の字が脱落している可能性が指摘されています。

無事に王新福を渤海に送り届けた後、天平宝字7年（763年）には渤海で音楽を学んだ高内弓とその家族、また入唐学問僧の戒融らを日本へ連れて帰ることになりました。ところが、渡海中に嵐に遭遇し、航行は困難を極めました。鎌束は異国の人々の存在が航海の不運を招いていると考え、高内弓の妻や乳母、優婆塞の4人を海に投げ込む決断をします。結果として、船は漂流し、最終的に隠岐国に辿り着くことになります。

その後、鎌束はこの件によって罪に問われ、獄に入れられることとなりますが、藤原仲麻呂の乱によって彼の獄が混雑したため、近江国に移されるという運命を辿ることになります。

音楽史への寄与

鎌束は後世において、孝謙朝や称徳朝の時代に笛の技術を弟子に伝授したとされています。特に、清瀬宮経へと教えを授けたとも言われ、彼の存在が大戸清上や和邇部大田麻呂などの後の楽人たちに与えた影響は計り知れません。板持鎌束と清瀬宮継が音楽の発展において重要な始まりであったと深く認識されていることからも、彼の音楽に対する知識や技術は、渤海から帰国した際に得たものが一因であると考えられます。このように、板持鎌束は日本古代の音楽史において重要な役割を果たした貴族であると言えるでしょう。

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