柏通信所

柏通信所（キャンプ・トムリンソン）とは

柏通信所は、かつて千葉県柏市とその周辺に位置していたアメリカ軍の通信施設です。通称「キャンプ・トムリンソン」とも呼ばれていました。1950年代から1970年代にかけて、アメリカ軍の重要な通信拠点として機能し、冷戦時代における戦略的な役割を担っていました。

概要

柏通信所は、柏市と流山市にまたがる広大な敷地（約188ヘクタール）を有していました。この地は、かつて旧日本陸軍の柏飛行場があった場所で、戦後にアメリカ軍が接収し、通信施設として利用しました。

施設番号: FAC 3035
所在地: 千葉県柏市大字中十余二字元山・同市大字十余二字南前山の一部（現:柏市柏の葉一丁目～六丁目）、流山市駒木台の一部（現:柏市柏の葉三丁目）
総面積: 約188ヘクタール（20,295,378.72平方フィート）
使用期間: 1954年（昭和29年）～1975年（昭和50年）
全面返還: 1979年（昭和54年）

沿革

飛行場から通信施設へ

1938年（昭和13年）に旧陸軍が建設した柏飛行場は、終戦後、アメリカ軍によって一時的に占領されましたが、その後農地として開拓されました。しかし、朝鮮戦争の勃発により、1950年（昭和25年）にアメリカ軍は通信施設用地としてこの地を接収。翌年には、さらに大規模な用地拡張が行われました。

1952年（昭和27年）には、日米間の協定により、この地はアメリカ軍に無期限で提供されることが決定。地元の土地所有者からは反対の声も上がりましたが、最終的にはオペレーションエリア（通信作業地区）の敷地のみを買収し、アンテナフィールドは賃貸借契約とする方針で合意されました。

アメリカ陸軍による運用

1954年（昭和29年）から、柏無線送信所としてアメリカ陸軍極東軍通信役務大隊によって運用が開始されました。当時、アメリカ陸軍が運用していたACAN（Army Command and Administrative Network）という短波無線の海外長距離通信網の中継拠点として重要な役割を担いました。

柏無線送信所は、埼玉県和光市の中継局や新座市の大和田無線受信所と連携し、世界各地のアメリカ軍通信施設へ向けて短波で情報を送信していました。

通信網と部隊名の変遷

その後、部隊の再編や通信システムの変遷に伴い、柏無線送信所は「ACAN施設」、「STARCOM施設」と名称を変え、1961年（昭和36年）には「柏通信所」となりました。

1963年（昭和38年）には、在日米陸軍通信軍団が長距離通信任務を在日米空軍へ引き継いだため、柏通信所は空軍の管轄下に移りました。

アメリカ空軍による運用

1964年（昭和39年）からは、アメリカ空軍の管理下で運用され、立川飛行場の関東基地司令部の管轄となりました。この時期には、アンテナの増設や施設の拡充が行われました。

しかし、1960年代後半からは、より高速で信頼性の高い通信システム（AUTODIN）が導入されたため、短波無線の重要性は低下。1970年代に入ると、柏通信所の機能は徐々に縮小されました。

機能縮小と返還

1973年（昭和48年）には、在日米軍施設の整理統合計画である「関東計画」において、柏通信所の返還も検討されましたが、費用対効果の面から見送られました。

1975年（昭和50年）には、所沢補給廠への機能移転が決定。同年12月までに全ての送信業務が移管され、1976年（昭和51年）には施設・区域の運用が停止されました。

ロランC局建設問題と全面返還

閉鎖後、一部の土地が返還されましたが、1977年（昭和52年）にはアメリカ沿岸警備隊がロランC局を建設する計画が発表されました。しかし、地元住民や野党からの反対運動が激化。その結果、建設は中止され、1979年（昭和54年）に全面返還されました。

通信システムの概要

ACAN（Army Command and Administrative Network）

当時、アメリカ陸軍はACANという短波無線の海外長距離通信網を運用していました。このシステムは主にラジオテレタイプ（印刷電信機）が用いられ、アメリカ本土と世界各地の中継拠点を結んでいました。

柏無線送信所は、このACANの重要な中継拠点として、マイクロウェーブ回線で送られてきたテレタイプ信号を短波無線でアンカレッジ、シアトル、サンフランシスコ、ハワイ、沖縄、マニラ、サイゴン、ソウル、釜山のアメリカ軍通信施設へ送信していました。

その他の通信

また、「VIPサーキット」と呼ばれる専用回線を使って、航空機で移動中の軍司令官などにも情報を送信していました。

施設

通信局舎（320号棟）

通信作業を行う建物で、T字型が特徴です。マイクロウェーブ通信の操作室も併設されていました。

電力室（370号棟）

通信局舎の隣にあり、ディーゼル発電機が設置されていました。

マイクロウェーブ塔

複数のパラボラアンテナを備え、アメリカ極東軍司令部や中央工業地区と接続していました。

兵舎地区

旧陸軍飛行場時代の格納庫を転用した複合リクリエーションビルや、兵員寮がありました。また、ヘリパッドも設けられていました。

その他

旧陸軍飛行場時代から残る給水塔や、下水処理施設がありました。

使用条件

米軍施設の影響がない範囲で、日本側の耕作や居住は自由とされていました。ただし、通信施設の運営に支障をきたすような行為は制限されました。

1962年（昭和37年）以降、アンテナの新設やオペレーションエリアの専用化に伴い、私有地の買収が進められました。

名称

当初は「Kashiwa Transmitter Station」と英文表記されていましたが、後に「キャンプ・トムリンソン」と呼ばれるようになりました。

日本語の施設名は一貫して「柏無線送信所」でしたが、アメリカ空軍省が作成した図面では「Kashiwa Communications Station」と記載されました。また、一部返還時には「Kashiwa Communication Site」と記載されました。

施設・区域内における地名の変遷

施設・区域内では、行政区画の変更に伴い、地名が何度か変更されました。

脚注

注釈

出典

参考文献

関連項目

柏飛行場
柏の葉
所沢通信施設
大和田通信所
キャンプ・ドレイク
* 府中通信施設

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