柳升

柳升（りゅう しょう）は、明代の軍人であり、その生涯は波乱に満ちたものでした。生年は不明ですが、字は子漸といい、本貫は安慶府懐寧県です。

柳升は、父の職を継いで燕山護衛百戸となり、軍人としてのキャリアをスタートさせました。大小二十数回の戦闘を経験する中で、その武勇は次第に認められ、左軍都督僉事にまで昇進しました。

永楽4年（1406年）、柳升は張輔に従い、ベトナムの胡朝に対する遠征に参加しました。魯江の戦いでは、胡朝軍を破り、将軍である阮子仁らを討ち取るという大戦果を挙げました。また、咸子関を守備するなど、重要な役割を果たしました。翌永楽5年（1407年）には、富良江での戦いで水軍を率い、胡朝軍を挟撃して打ち破り、尚書の阮希周らを捕縛しました。さらに、奇羅海口での戦いでは、敵の船300隻を鹵獲し、胡季犛とその子の胡元澄を捕らえるという大功績を挙げました。これらの勝利を朝廷に報告し、柳升は多大な賞賜を受けました。永楽6年（1408年）に遠征軍が帰還すると、安遠伯に封じられ、世襲の権利も与えられました。

永楽7年（1409年）、柳升は陳瑄とともに水軍を率いて海上を巡視し、青州沖で倭寇を破り、金州白山島まで追撃して凱旋しました。永楽8年（1410年）には、永楽帝の漠北遠征に従軍し、回曲津において神機営の火器部隊を率いて先鋒を務め、アルクタイを撃破するなどの活躍をみせました。この功績により、安遠侯に進められ、安遠伯の爵位も世襲することが許されました。永楽9年（1411年）には、寧夏に駐屯し、叛将の馮答蘭帖木児らを討ち取りました。永楽10年（1412年）に南京に召還されると、京営の兵を統率する役目を担いました。永楽12年（1414年）の漠北遠征でも、大営の兵を率いて忽蘭・忽失温と戦い、火器を用いて敵を打ち破りました。

しかし、柳升の軍事的成功は、その後の悲劇へと繋がる伏線ともなりました。永楽18年（1420年）、山東蒲台で唐賽児の乱が起こると、柳升は都指揮の劉忠とともに鎮圧に向かいました。しかし、柳升は反乱軍を軽視し、降伏の申し出を安易に信じた結果、夜襲を受けて劉忠を失い、唐賽児には逃走を許してしまいました。さらに、柳升は安丘の包囲を解いた衛青の功績を妬み、彼を辱めるなど、その驕慢な態度が目立つようになりました。この事件により、柳升は南京に召還され、一時的に投獄されましたが、間もなく釈放されました。

永楽20年（1422年）には、再び永楽帝の漠北遠征に従軍し、中軍を率いてウリャンカイを屈裂児河で破りました。この功績により、安遠侯の爵位を世襲する権利を得ました。柳升は永楽帝の5回の漠北遠征に全て従軍し、その武功と寵遇は列侯の中でも群を抜いていました。永楽22年（1424年）に洪熙帝が即位すると、右府を管掌するよう命じられ、太子太傅の位を加えられました。

宣徳元年（1426年）冬、成山侯王通がベトナムの黎利の軍に敗北したという報告が朝廷に届きました。宣徳帝は柳升を征虜副将軍、交趾総兵官に任命し、7万の兵を率いて黎利討伐に向かわせました。しかし、この時すでに黎利の勢力は強大であり、道路は封鎖され、北京の朝廷は交趾の状況を正確に把握することができませんでした。

宣徳2年（1427年）6月、柳升は昌江が包囲されているという報告を受けて救援に向かいましたが、実際には4月にはすでに陥落していました。9月、柳升はようやく隘留関に到着しました。黎利は偽って陳朝の末裔を王に立てたいという上奏文を提出しましたが、柳升はそれを見ずに北京に送りました。黎利軍は険阻な地形に拠って柵を築いていましたが、遠征軍はこれを次々と撃破し、鎮夷関に到達しました。しかし、柳升は黎利軍の連敗を見て油断し、驕慢な態度を取るようになりました。李慶と梁銘は病床に伏していましたが、郎中の史安と主事の陳鏞が柳升の傲慢さを李慶に報告したため、李慶は病床から無理に起き上がって柳升を諫めました。しかし、柳升はこれを聞き入れませんでした。

倒馬坡に差し掛かった際、柳升は100騎あまりとともに先駆けして橋を渡りましたが、橋が突然崩壊し、後続の部隊は進むことができなくなりました。その直後、黎利軍の伏兵が四方から現れ、柳升は泥濘の中に陥り、投擲武器を受けて戦死しました。梁銘と李慶も病死し、崔聚は昌江で戦って敗れるという大敗北を喫し、遠征軍は全滅しました。

正統12年（1447年）、柳升は融国公の位を追贈され、諡は襄愍とされました。子には柳溥がいました。

柳升の生涯は、その武勇と功績の一方で、驕慢さによる破滅という教訓を示しています。彼の軍事的な才能は、明朝の拡大に大きく貢献しましたが、晩年の過ちが、その名を汚すことになったと言えるでしょう。

参考文献：『明史』巻154 列伝第42

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