根岸鎮衛

根岸鎮衛：下級旗本から名奉行へ上り詰めた生涯

根岸鎮衛は、江戸時代中後期に活躍した旗本です。勘定奉行、南町奉行という要職を歴任し、その卓越した手腕と人柄で知られました。彼の生涯は、まさに下級旗本から成り上がった立志伝中の一冊と言えるでしょう。

下級旗本からの出発

鎮衛は、150俵取りという下級旗本の家に生まれました。しかし、彼の出自には謎めいた部分も残されています。ある説では、彼は裕福な町家や豪農の出身で、150俵取りの下級旗本である根岸家の家督を継いだのだといいます。これは、当時、御家人の資格が金銭で売買されるようになり、鎮衛の父が根岸家の資格を購入したという背景によるものです。

幕府における出世街道

根岸家の家督を継承した鎮衛は、勘定所の御勘定という中級幕吏からキャリアをスタートさせます。その後、評定所留役、勘定組頭、そして勘定吟味役へと順調に出世を重ねていきました。42歳の時には、勘定吟味役として布衣を着用することを許される地位にまで上り詰めました。

勘定吟味役時代には、河川改修や普請工事でその手腕を発揮しました。日光東照宮や二条城などの修復工事、東海道や関東各地の川普請など、大規模な工事を数多く手がけ、その功績は広く幕府に知れ渡ることとなります。

天明大噴火と佐渡奉行

天明3年（1783年）の浅間山大噴火では、被災地巡検の役目を担い、その活躍は幕府に高く評価されました。この功績が認められ、翌年には佐渡奉行に昇格、さらに50俵の家禄が加増されました。

勘定奉行、南町奉行への就任

天明の大飢饉やそれに伴う打ちこわしといった動乱の中、鎮衛は政治的混乱に巻き込まれることなく、その優れた行政手腕を買われて、天明7年（1787年）に勘定奉行に抜擢されます。家禄は500石にまで増加しました。さらに、寛政10年（1798年）には南町奉行に就任し、18年にわたってその職務を全うしました。死去直前にはさらに家禄が加増され、最終的には1000石の旗本となりました。

豪傑で知られた人物像

鎮衛は、豪傑で知られ、上司や庶民からも広く慕われていました。その人となりは、当時の巷説や記録にも色濃く反映されています。しかし、一方で、全身に刺青をしていたという噂話も残されています。

南町奉行在任中、彼は法に厳格ながらも柔軟な対応で知られました。窃盗事件では、証拠に基づいて犯人に死刑を宣告した一方で、町火消しと力士の乱闘事件では、現実的な判断で事件の処理にあたりました。また、被告人の刑を軽くしてほしいという請願にも、彼の柔軟な対応が伺えます。

『耳袋』：30年間にわたる世間話の記録

鎮衛は、佐渡奉行在任中から晩年まで、30年以上にわたって『耳袋』という随筆集を書き溜めました。この書には、武士から町人まで、様々な身分の人の珍談奇談怪談が記録されています。全10巻1000編に及ぶ膨大な内容は、当時の世相を知る上で貴重な資料となっています。

後世への影響

根岸鎮衛は、その生涯と人物像から、数々の時代劇や小説、落語などの題材として取り上げられています。彼の名前は、現代においても広く知られており、江戸時代の魅力的な人物像として人々に記憶されています。彼の功績や人となりは、現代社会においても参考となる部分が多く含まれていると言えるでしょう。

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