桂萼

桂萼（けい がく）

桂萼は、明代中期の政治家で、字を子実といい、饒州府安仁県（現在の江西省余江県付近）の出身です。成化14年（1478年）に生まれ、嘉靖10年（1531年）にその生涯を閉じました。彼の政治家としてのキャリアは、科挙合格から始まり、地方官、中央官僚、さらには内閣大学士という高位にまで昇りつめましたが、その道のりは決して平坦ではありませんでした。

若き日の苦難と転機

正徳3年（1508年）に科挙に合格した桂萼は、その3年後には進士となり官僚としてのキャリアをスタートさせます。南直隷鎮江府丹徒県、浙江省湖州府武康県、北直隷広平府成安県と各地の知県を歴任しますが、母の死や上司である知府との対立が原因で、いずれも任期を全うすることができませんでした。この時期は、彼のキャリアにとって不安定な時代であり、嘉靖2年（1523年）に南京刑部主事に任命されるまで、その状況は続きました。

大礼の議と政治的躍進

南京刑部主事就任直後、明朝を揺るがす大礼の議が勃発します。この議論で、同僚の張璁が嘉靖帝の意向を支持する上奏を行うと、桂萼もこれに同調します。この行動が嘉靖帝の目に留まり、嘉靖4年（1525年）には張璁とともに北京の翰林院学士に抜擢されるという幸運を掴みます。さらに、嘉靖6年（1527年）には吏部尚書、嘉靖8年（1529年）には内閣大学士に任じられ、彼は政治の中枢へと駆け上がります。

失脚と再任、そして晩年

しかし、桂萼の政治的成功は長くは続きませんでした。同僚の楊一清との対立が激化し、嘉靖8年（1529年）の8月には失脚してしまいます。しかし、その年の11月には召還命令を受け、嘉靖9年（1530年）4月には再任を果たします。しかし、この頃にはすでに病に侵されており、7月には「3か月間病欠が続いている」と批判され、嘉靖10年（1531年）には致仕し、4月に故郷へと帰ります。その後、間もなくして病死しました。彼の晩年は、病との闘いであり、政治家としての最後の輝きを失ったものでした。

評価と遺産

桂萼は、地方官時代から上司と衝突するトラブルメーカーとしての一面を持っていました。また、高官となってからは、反対者を排斥し、罪に陥れることが多かったと伝えられています。彼が一時的に失脚したのも、陸粲という人物が彼に反発して上奏したことが原因でした。また、推薦した王守仁が自分の意向に従わなかったことを深く恨んだとも言われています。

一方で、地方の疲弊した状況を目の当たりにし、賦役改革などの積極的な構想を抱いていました。嘉靖帝に度々上奏を行い、病気から復帰後の嘉靖9年（1530年）8月には、朱熹の井田論をモデルとした賦役改革案『任民考』を上奏しています。この改革案は、万暦年間の張居正の改革につながる要素も持っていました。しかし、礼制の改革には積極的であったものの、税制などの分野では「祖法」を守るべきと考えていた嘉靖帝の不興を買い、最終的には政治的に孤立する要因となりました。

桂萼は、その波乱に満ちた生涯を通じて、明代の政治史に特異な足跡を残しました。彼の功績と失敗は、後世に多くの教訓と課題を残しています。

参考文献

小畑竜雄「桂萼」『アジア歴史事典 3』（平凡社、1984年）
岩本真利絵「桂萼賦役制度改革論」『明代の専制政治』（京都大学出版会、2019年） ISBN 978-4-8140-0206-1

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