張居正

張居正（ちょう きょせい）

張居正（1525年 - 1582年）は、明代後期の政治家で、字は叔大、号は太岳、諡は文忠と称されました。万暦帝の時代に首輔（宰相）として政治を主導し、明朝の財政再建に大きく貢献しました。しかし、その強引な手法は多くの政敵を生み、死後にはその功績が否定されるという悲劇的な結末を迎えることになります。

生い立ちと官僚としてのキャリア

嘉靖4年（1525年）、湖北省江陵県に生まれた張居正は、嘉靖24年（1547年）に23歳で進士に合格し、翰林院庶吉士として官僚としてのキャリアをスタートさせます。その後、様々な役職を歴任し、隆慶元年（1567年）には隆慶帝の即位に伴い、吏部左侍郎兼東閣大学士に抜擢されます。この時、首輔大学士であった徐階や高拱らと共に政治に関わりました。

首輔としての活躍

隆慶6年（1572年）、隆慶帝が崩御し、張居正の学問上の弟子であった万暦帝が10歳で即位すると、張居正は宦官の馮保と結び、高拱を失脚させて首輔の座を手にします。幼帝を擁した張居正は、独裁的な手腕を発揮し、次々と改革を断行しました。

考成法の導入

まず、地方官の業績を首輔が評価できる「考成法」を導入しました。これにより、これまで皇帝の秘書官に過ぎなかった大学士が、事実上、官僚機構のトップに立つことになったのです。

全国的な丈量（検地）の実施

考成法を基盤として、張居正は全国的な丈量（検地）を実施しました。当時、地方の有力者である郷紳たちは、所有地の量を偽って税を逃れることが横行していました。張居正は、これに断固として挑み、大量の隠し田を摘発しました。この結果、全国の田土は300万頃も増加したとされています。これにより、税収が増加し、明朝の財政再建に大きく貢献しました。

一条鞭法の拡大

また、丈量と並行して、これまで部分的に実施されていた「一条鞭法」という税制を全国的に拡大しました。この税制改革は、税の徴収を簡素化し、農民の負担を軽減する効果がありました。

その他の改革

その他にも、無駄な工事や官職の廃止、黄河の治水などにも積極的に取り組みました。これらの改革により、明朝の財政は大きく改善し、万暦帝の治世初期には、歳入が200万両から300万～400万両に増加し、倉庫には10年分の食料が積み上げられたといわれています。

晩年と死後の悲劇

しかし、その強引な改革は、言論弾圧や既得権益の侵害につながり、朝野には張居正に対する不満が鬱積していました。万暦5年（1577年）には、父が死去したため、本来であれば服喪のために職を辞さなければならなかったのですが、張居正は職を辞することによる政敵からの攻撃を恐れ、職務を続けました。この行為は、大きな批判を浴び、後に死後の弾劾の原因の一つとなりました。

万暦9年（1581年）に病に倒れ、翌年に58歳で死去。死後、上柱国の封号と文忠の諡を贈られましたが、すぐに、服喪を怠ったことなどを理由に弾劾が相次ぎ、万暦11年（1583年）には、封号と諡を剥奪されただけでなく、死後にもかかわらず死刑扱いとされ、家産は没収、長男は自殺、他の家族は辺境に送られるという悲劇的な結末を迎えました。

張居正の死後

張居正の死後、万暦帝は政務を放棄し、過度の奢侈に走り、張居正が積み上げた財産は全て使い果たされてしまいました。張居正の改革は、明朝の財政を一時的に立て直したものの、その後の政治腐敗を止めることはできず、明朝は衰退へと向かうこととなります。

登場作品

張居正は、その劇的な生涯から、多くの歴史小説やドラマで取り上げられています。

『大明王朝 〜嘉靖帝と海瑞〜』（2006年、演：郭東文）
「万暦首輔張居正」（2010年、日本未公開、演：唐国強）

参考文献

愛宕松男、寺田隆信『モンゴルと大明帝国』講談社〈講談社学術文庫〉、1998年。ISBN 978-4061593176。
寺田隆信「明」。
神田信夫 編『中国史4 明〜清』 4巻、山川出版社〈世界歴史大系〉、1999年。ISBN 978-4634461802。
第一章「明」
山根幸夫「明の歴史」。
濱島敦俊「明代の社会と経済」。
上田信『中国の歴史9 海と帝国:明清時代』講談社、2005年。ISBN 978-4062740593。
『文庫版』講談社〈講談社学術文庫〉、2021年。ISBN 978-4065227770。

外部リンク

See the Encyclopedia Britannica entry.
An article about the Ming dynasty.
* 『張居正』 - コトバンク

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