桓彝

桓彝（かん い）

桓彝（276年 - 328年）は、西晋末期から東晋初期にかけての官僚・政治家であり、字は茂倫（ぼうりん）といいます。譙国竜亢県（現在の安徽省蚌埠市懐遠県）の出身で、東晋朝廷の運営や地方統治で活躍しましたが、蘇峻の乱で討死しました。

生涯

西晋に仕え、兗州の主簿に任じられました。永康2年（301年）3月、斉王司馬冏の挙兵に加わり、騎都尉に任じられます。その後、安東将軍司馬睿から逡遒県令に任じられました。

永嘉5年（311年）12月、江南に渡り、司馬睿に仕えます。丞相中兵属・中書郎・尚書吏部郎を歴任し、朝廷内で名声を高めました。河北から温嶠がやってくると、王導・周顗・謝鯤・庾亮らと親交を結びます。

大将軍王敦が権力を握ると、桓彝は病と称して職を辞しました。しかし、皇帝司馬紹から散騎常侍に任じられ、王敦討伐の密謀に参画します。王敦の乱平定後、万年県男に封じられました。

丹陽尹温嶠の推薦を受け、司馬紹自らの詔勅により宣城内史に任じられます。当初、桓彝は宣城を治める任に堪えられないと上疏しましたが、しばらくして就任を承諾し、郡内で善政を敷き、領民から慕われました。

咸和2年（327年）12月、冠軍将軍蘇峻が朝廷に対して反乱を起こすと、桓彝は兵を率いて建康へ向かおうとしました。しかし、長史裨恵は、宣城郡の兵が寡弱であり、民が動揺しやすいため、備えを解いて反乱が終わるのを待つよう進言しました。

これに対し桓彝は、「君主に無礼を働く者には、たとえ相手が強い鷹でも、自分が弱い雀であったとしても、これを追い払うものだ。今、国に危機が迫っているのに、義を捨てて安穏としていられるか！」と激怒しました。そして、将軍朱綽を遣わし、蕪湖で蘇峻軍を破り、自身も蕪湖に進んで駐屯しました。しかし、蘇峻軍の将韓晃に破られ、宣城に進攻されます。桓彝は広徳に退き、韓晃は周囲の諸県を掠奪して帰還しました。

咸和3年（328年）5月、桓彝は建康が陥落したと聞き、涙を流して嘆き悲しみ、涇県に進んで駐屯しました。当時、州郡の多くが蘇峻に降伏していましたが、裨恵は蘇峻に使いを送り、友好を結んで災いを避けるよう説きました。しかし、桓彝は「私は国から厚い恩を受けており、義のために死ぬ覚悟だ。逆臣と通じるような恥は忍べない！」と拒否しました。桓彝は将軍兪縦に蘭石を守らせましたが、蘇峻は韓晃に攻撃させ、兪縦は敗れて討ち取られました。

韓晃は宣城を攻め、援軍がない中、「桓彝が降伏すれば、礼をもって優遇する」と呼びかけました。将兵の多くは、偽りの降伏をして機会を待つよう勧めましたが、桓彝は従わず、抗戦の意志を貫きました。しかし、6月、宣城は陥落し、桓彝は韓晃に討ち取られました。享年53歳でした。

蘇峻の乱平定後、廷尉を追贈され、簡と諡されました。咸安年間には太常に改贈されています。

人物・逸話

幼い頃から孤独で貧しい生活を送っていましたが、落ち着いて安らかに過ごしていました。性格は朗らかで早くから名声を得ており、道徳的秩序や物事の本質を見抜くことに長けていました。

庾亮とは幼少の頃から親交があり、周顗に重んじられていました。周顗は桓彝の人物について「茂倫の嶔崎歴落（人品高潔な様子）ぶりは、思わず笑う人がいるであろう」と評しています。

江南に渡った際、桓彝は司馬睿の朝廷が弱体であるのを見て、「中原の混乱を避けて安全を求めて来たのに、これほど弱々しくては、どうして事を成すことができようか！」と憂慮しました。しかし、王導と世事について語り合った後、周顗に「管夷吾（管仲）を見た。もう憂うことなどないぞ」と語り、安心した様子を見せました。

占術者の郭璞とは親交がありましたが、ある時、郭璞の家に酔って訪れた際、郭璞は裸になって髪を振り乱し、刀を咥えて祭壇を設けるという奇妙な行動に出ました。郭璞は桓彝に「あなたと私は友人ではあるが、今、来てはいけなかった。もう少し遅ければ、このようにはならなかった！災いは私だけでなく、あなたも免れないだろう」と告げました。その予言通り、郭璞は王敦の乱で、桓彝は蘇峻の乱でいずれも殺害されました。

桓彝が敗れたのは、涇県県令江播が韓晃に内通したためでした。子の桓温は仇討ちのため、江播の三人の子供を殺害して仇を討ちました。

家族

父：桓顥
妻：孔憲
子：
桓温（長男）
桓雲（次男）
桓豁（三男）
桓秘（四男）
桓沖（五男）

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