桜隊

桜隊

桜隊（さくらたい）は、かつて存在した日本の劇団です。前身である苦楽座を含め、その活動は戦時下の日本の演劇界における重要な出来事でした。特に、広島への原爆投下によって劇団員が多数犠牲となったことは、演劇史に残る悲劇として語り継がれています。本稿では、桜隊とその前身である苦楽座の歴史、そして原爆による被害、その後の関係者の活動について詳しく解説します。

概要

桜隊の前身は、薄田研二、徳川夢声、丸山定夫、藤原釜足によって結成された苦楽座です。苦楽座は、旗揚げ公演後、各地を巡回する公演活動を行っていました。その後、苦楽座は解散し、桜隊として日本移動演劇連盟に組み込まれ、地方への慰問巡演を開始しました。劇団が地方へ疎開する際、15人が広島に移動し、中国地方での慰問公演を担当することになりました。しかし、1945年8月6日の原爆投下により、広島市内の宿舎兼事務所にいた丸山定夫ら9人が犠牲となりました。一方、応召や出産などの理由で広島に疎開しなかった、または広島を離れていた多々良純、佐野浅夫、千石規子、利根はる恵、永田靖、池田生二、槙村浩吉らは難を逃れました。2012年12月27日には千石規子が、2022年6月28日には佐野浅夫が老衰で死去し、これにより苦楽座から続く桜隊のメンバー全員がこの世を去りました。

沿革

苦楽座時代

1942年、苦楽座が結成されました。同年、丸山定夫が文学座の舞台『富島松五郎伝』に客演し、丹阿弥谷津子も出演しました。同年12月3日には、園井恵子も参加し、『玄関風呂』や『見知らぬ人』などの演目で旗揚げ公演を行いました。この公演には原泉や望月優子も客演しました。その後、苦楽座は地方への慰問巡演活動を開始しました。
1943年には、園井恵子が映画『無法松の一生』に出演しました。1944年には、苦楽座として『無法松の一生』を各地で巡演し、丸山定夫が無法松、園井恵子が吉岡良子、高山象三が吉岡小太郎を演じました。しかし、同年12月24日には苦楽座は解散しました。

桜隊に再編

1945年1月、苦楽座は日本移動演劇連盟に組み込まれ、苦楽座移動隊として再出発しました。同年2月から3月にかけて広島公演を行いましたが、3月の東京大空襲後には多くの俳優が帰郷してしまいました。同年6月、広島への疎開の際に桜隊と改称しました。15人が広島に疎開し、『獅子』や『太平洋の防波堤』などの演目で公演活動を行う一方、稽古や防空壕掘りなどの作業も行いました。7月6日の島根県での公演を皮切りに、島根・鳥取両県で10回の公演を終え、7月16日に広島へ帰還しました。

被爆

1945年8月6日、広島市に原爆が投下されました。市内の宿舎兼事務所は全壊・焼失し、当時宿舎にいた9人のうち、丸山定夫、園井恵子、高山象三、仲みどりの4名は脱出・避難しましたが、森下彰子、羽原京子、島木つや子、笠絅子、小室喜代の5人は即死あるいは焼死したとみられています。同年8月16日、丸山定夫は避難先の厳島で死去し、園井恵子と高山象三は神戸に避難しましたが、高山は8月20日、園井は8月21日に死亡しました。仲みどりは東京に避難しましたが、8月24日に死亡しました。これにより、広島に残留していた桜隊の隊員・スタッフは全滅しました。1952年には、徳川夢声が東京の五百羅漢寺に石碑を建立しました。

被爆死を免れた人々

苦楽座のメンバーの中には、桜隊に参加しなかった者や、様々な事情から被爆を免れた者がいました。利根はる恵は病気で疎開せず、佐野浅夫は本土決戦特攻隊員として出征しました。多々良純は応召、八田元夫は連絡のため帰京、池田生二は妻の実家を見舞い、槙村浩吉は俳優を探すため上京していました。千石規子は出産のため広島を離れていました。苦楽座の結成メンバーである薄田研二、徳川夢声、藤原釜足も、東京で映画撮影をしていて難を逃れました。久松保夫は丸山から桜隊への参加を誘われましたが、東宝の許可が出なかったため断念しました。川上夏代も桜隊への参加を勧められましたが、俳優座に入るために断りました。桜隊の広島疎開には珊瑚座という移動劇団も同行しましたが、7月末に厳島の寺に移動し、原爆の被害を免れました。珊瑚座のメンバーは、桜隊の行方を捜し、遺骨の発掘に尽力しました。

桜隊を描いた作品

桜隊の悲劇は、映画、演劇、ドキュメンタリー、詩、ラジオドラマなど様々な形で語り継がれています。

映画

『さくら隊散る』（1988年） - 新藤兼人監督による映画化
『海辺の映画館―キネマの玉手箱』（2020年） - 大林宣彦監督作品

演劇

『紙屋町さくらホテル』（1997年） - 井上ひさし作

TVドキュメンタリー

『ハイビジョン特集 戦後60年関連 ヒロシマ・戦禍の“恋文” 女優 森下彰子の被爆』（2008年） - NHK-BSハイビジョンにて放送

詩

近野十志夫『桜隊 人物史詩』（1988年）

ラジオ

『桜隊とマリーゴールド』（2019年） - 広島FMの特別番組ラジオドラマ

慰霊碑

移動演劇さくら隊殉難碑（広島市中区平和大通り）
移動劇団さくら隊原爆殉難碑（東京都目黒区・天恩山五百羅漢寺）

その後の関係者の行動

桜隊のメンバーや関係者は、被爆の悲劇を風化させないため、様々な活動を行ってきました。慰霊碑の建立や、作品を通じて桜隊の歴史を語り継ぐ努力が続けられています。

脚注

注釈

出典

参考文献

新藤兼人『さくら隊8月6日 広島で被爆した若き新劇人たち』（1988年）
堀川惠子『戦禍に生きた演劇人たち 演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇』（2017年）

関連文献

「特集劇団『さくら隊』原爆忌」『彷書月刊』（1998年8月号）

関連項目

広島原爆をテーマとした作品

外部リンク

* 移動演劇桜隊平和祈念会

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