楊廷和

明代の政治家・楊廷和

楊廷和（よう ていわ、1459年 - 1529年）は、明代中期に活躍した政治家です。字は介夫、号は石斎と称し、諡号は文忠です。現在の四川省成都市新都県出身ですが、本籍は江西省吉安府廬陵県にあります。父の楊春は、湖広省の教育行政を司る提学僉事という官位にまで上り詰めました。また、息子には、明代の著名な文人である楊慎がいます。

エリート官僚としてのキャリア

12歳という若さで科挙の地方試験である郷試に合格し、挙人の位を得ました。1478年（成化14年）には、全国規模の試験である会試と殿試に合格し、進士となります。さらに、翰林院の庶吉士に選ばれ、エリート官僚としての道を歩み始めました。その後、翰林院修撰に進み、『憲宗実録』の編纂に携わりました。さらに左春坊左中允、侍太子講読と昇進を重ね、皇太子の教育係も務めました。また、『会典』の編纂にも参加し、左春坊大学士という異例の昇進を果たしました。

権力闘争と失脚、そして復帰

1507年（正徳2年）、朝廷内で権勢を誇っていた宦官の劉瑾と対立したため、南京吏部左侍郎に左遷されました。しかし、同年5月に劉瑾が処罰されると、南京戸部尚書に転任し、わずか3ヶ月後には中央に召還され、文淵閣大学士として朝政に参画しました。翌年には少保兼太子太保、さらにその翌年には光禄大夫・柱国・吏部尚書・武英殿大学士と、次々と要職を歴任しました。

皇帝擁立と国政改革

1521年（正徳16年）4月、武宗が跡継ぎを残さずに崩御すると、楊廷和は内閣大学士の首輔として、遺詔を代筆し、弘治帝の弟である興王朱祐杬の子、朱厚熜（後の嘉靖帝）を皇帝として擁立しました。嘉靖帝が北京に入るまでの間、楊廷和は朝廷を総攬し、多くの改革を断行しました。その功績から「救時宰相」と称えられました。しかし、「大礼の議」と呼ばれる儀礼に関する問題が原因で、嘉靖帝の意向と対立することとなります。1524年（嘉靖3年）には引退を余儀なくされ、1528年（嘉靖7年）には官職を剥奪されてしまいます。翌年に死去しますが、1567年（隆慶元年）に復官し、太保を追贈され、諡を文忠とされました。

後世の評価

江戸時代の歴史家である斎藤竹堂は、楊廷和を「君子」と評する一方で、「大礼の議」における彼の対応を批判しました。斎藤竹堂は、楊廷和が義や情に反する議論を展開し、枝葉末節に拘泥したために、論敵である張璁や桂萼のような「小人」に乗じられ、名誉を失ったと指摘しています。このように、楊廷和の評価は後世の歴史家によって分かれており、その複雑な人物像を物語っています。

参考文献

『明史』巻190
焦竑・編『献征録』巻15
孫志仁『楊廷和行状』
李贄『続蔵書』巻12「太保楊文忠公」
* 尤淑君『名分禮秩與皇權重塑：大禮議與嘉靖政治文化』（台北：国立政治大学歴史系，2006年）

もう一度検索