橋本達也 (考古学者)

橋本達也

橋本達也（はしもと たつや、1969年 - ）は、日本の考古学者です。現在、鹿児島大学総合研究博物館の教授として教鞭をとる傍ら、研究活動を精力的に行っています。専門は、古墳時代の鉄製武具、特に甲冑や武器、そして九州地方の南部に位置する地域における古墳文化や独特な地下式墓制です。日本考古学協会の会員でもあります。

経歴と研究への道のり

1969年、大阪府堺市美原区大保に生まれた橋本氏は、幼少期から地元の黒姫山古墳に親しみ、古墳内部を探検するなど、考古学への関心を育みました。青山学院大学文学部史学科で歴史学を専攻し、さらに早稲田大学大学院修士課程で考古学を深く学びました。大学院修了後、徳島大学総合科学部で助手を務め、その後、鹿児島大学総合研究博物館へ移り、助教授を経て現在の教授の職に就きました。この経緯は、近畿地方の古墳文化から始まり、やがて研究の中心を南九州へと移していく、その後の研究テーマの展開とも深く関わっています。

古墳時代の武具と社会構造

橋本氏の研究の中心の一つは、古墳時代に用いられた鉄製の武具、とりわけ甲冑や冑です。古墳時代中期の主要な副葬品である板甲（一般には短甲と呼ばれることが多い）や小札甲（一般には挂甲と呼ばれることが多い）の形態や構造を詳細に分析しています。また、衝角付冑や眉庇付冑といった冑についても同様に研究を進めています。さらに、これらの鉄製武具が、当時の大和王権から地方の有力者層へどのように配布・供給されていたのかというシステムを分析することで、当時の政治体制や軍事的な構造、さらには社会階層など、広範な社会構造の解明に取り組んでいます。これらの研究成果は多くの学術論文として発表されています。

甲冑用語への問題提起

橋本氏の研究の中でも特筆すべきは、現在一般的に用いられている古墳時代の甲冑の呼称に対する問題提起です。古墳時代の鎧を「短甲（たんこう）」「挂甲（けいこう）」と呼ぶのが通例ですが、橋本氏は、これらの名称が本来、奈良時代や平安時代に用いられた甲冑を指す言葉であり、古墳時代の甲冑とは構造や形態が大きく異なっている点を指摘しています。そのため、古墳時代の甲冑にこれらの用語を用いることは不適切であるとし、従来の短甲に代わる名称として「板甲（いたよろい）」、従来の挂甲に代わる名称として「札甲（さねよろい）」、あるいは「小札甲（こざねよろい）」という新たな呼称を用いるべきではないかと提唱しています。これは、学術用語の厳密性を求める重要な提案として注目されています。

南九州の古墳文化と歴史像の再考

もう一つの主要な研究分野は、九州南部の古墳文化です。鹿児島県、宮崎県、熊本県南部といった地域は、古墳文化の伝播における南限域にあたると考えられています。この地域独自の地下式墓制（地下に掘られた横穴墓や板状の石材を積み上げた石棺墓など）や古墳を対象に、発掘調査と研究を進めています。鹿児島県南さつま市の奥山古墳、曽於郡大崎町の神領古墳群（特に10号墳）、宮崎県えびの市の島内地下式横穴墓群（特に第139号墓）など、具体的な遺跡の発掘調査に参加・主導し、その成果を発表しています。これらの調査によって出土した副葬品の性格などを分析することで、この地域の住民が当時、大和王権をはじめとする他の地域と非常に活発な交流を行っていたことを示唆する証拠を提示しました。かつて、この南九州地域は、大和王権に抵抗し、古墳文化を受け入れなかった熊襲（くまそ）や隼人（はやと）といった「被征服民」の地として描かれることが多かったのですが、橋本氏は自身の調査研究に基づき、この歴史像を見直す必要性を訴えています。地域間の積極的な交流を示す考古学的証拠は、従来の歴史観に新たな視点を提供しています。

研究分野と主な業績

橋本氏の研究領域は、考古学全般にわたり、特に古墳時代、鉄製武器・武具、古墳、博物館学、そして南九州の地下式墓制に焦点を当てています。多くの論文や著作があり、主要なものとして『古墳以外の墓制による古墳時代墓制の研究』、『古墳時代甲冑集成』、『黒姫山古墳-巨大古墳の時代を解く鍵-』などがあります。これらの業績は、古墳時代史、特に武具研究と南九州の地域史研究に大きく貢献しています。

もう一度検索