橿丸

橿丸（かしまる）

橿丸は、1940年（昭和15年）に大阪造船所で建造された日本の小型貨物船です。太平洋戦争中にニュージョージア島沿岸で空襲を受け沈没しましたが、その残骸は現在、スクーバダイビングのスポットとして活用されています。

船歴

1940年4月30日に竣工検査を完了した橿丸は、当時「海上トラック」（海トラ）と呼ばれた小型貨物船の一隻でした。鋼製の船体と船尾機関型が特徴で、動力には神戸発動機製作所製の4ストロークディーゼルエンジンを搭載していました。船主は東和汽船で、当時の日本統治下にあった関東州の大連港に船籍を置いていました。

日中戦争中の1940年12月5日には、日本海軍によって海軍省一般徴用船として徴用され、佐世保鎮守府の管轄下に入りました。太平洋戦争が始まると、1943年（昭和18年）6月1日には第八艦隊に配属され、雑用船として使用されました。

当時、ソロモン諸島の戦いにおいて日本軍は劣勢に立たされており、制空権・制海権を失いつつありました。そのため、駆逐艦による輸送が困難となり、海上トラックがその代替として、月暗期を利用した夜間の前線輸送に従事しました。橿丸もその一隻であり、1943年4月30日と5月6日にはニュージョージア島バイロコ港への食料輸送に成功。続く月暗期には、5月29日と6月5日にコロンバンガラ島方面への輸送を成功させています。

海上トラックは、駆逐艦に比べて搭載能力が大きく、橿丸も6月5日の輸送では人員約90名と物資約255トンを一度に揚陸するなど、その貢献は非常に大きいものでした。『戦史叢書』においても、低速かつ無防備な状態で困難な輸送任務に当たった海上トラックの乗員の勇敢さは、駆逐艦の乗員に決して劣らないと評価されています。

終焉

橿丸の最期は、1943年7月2日に訪れました。ニュージョージア島の戦いの最中、バイロコ港へ輸送任務のため停泊していたところ、アメリカ陸軍航空軍のB-25爆撃機とアメリカ海軍のF4U戦闘機による空襲を受け、沈没しました。この空襲により、船員1名が戦死しました。橿丸の沈没後、日本海軍のニュージョージア島に対する海上輸送は、第1根拠地隊所属の徴用漁船による舟艇輸送が中心となりました。

現在

橿丸の沈没地点は水深17mと浅く、干潮時にはマストが水面から突き出るほどです。沿岸の浅い海域に残骸が残っているため、初心者でも沈船ダイビングが可能なダイビングスポットとして、太平洋戦争終結後には観光資源となりました。現在では、ニュージョージア島ムンダを拠点とする沈船ダイビングツアーにも組み込まれています。

まとめ

橿丸は、太平洋戦争という激動の時代に、物資輸送という重要な役割を担った小型貨物船でした。その勇敢な航海は、戦時中の人々の生活を支え、多くの命を救いました。現在は、ダイビングスポットとしてその姿を海中に留め、訪れる人々に歴史を語りかけています。

参考文献

防衛庁防衛研修所戦史室『南東方面海軍作戦（3）ガ島撤収後』朝雲新聞社〈戦史叢書〉、1976年。

関連項目

クラ湾夜戦

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