武士彠

武士彠（ぶ しやく）

武士彠（577年 - 635年）は、中国の隋末から唐初にかけての政治家で、武則天の父として歴史に名を残しています。字は信明、本貫は并州文水県です。

生涯

財産家の武華の子として生まれた武士彠は、若い頃から幅広い交友関係を築きました。隋末には鷹揚府隊正に任じられています。唐国公李淵が太原留守となると、その才能を見出され、行軍司鎧参軍として召し出されました。

李淵が挙兵を決意した際、劉弘基や長孫順徳らが兵を集めましたが、副留守の王威と高君雅は彼らの意図を疑っていました。この時、武士彠は「彼らは皆、唐公の客である」と言って王威らを誤魔化し、李淵の挙兵を助けました。また、司兵参軍の田徳平が募兵の状況を王威に報告しようとした際には、彼を脅して報告を阻止しました。

李淵が正式に挙兵すると、武士彠は大将軍府鎧曹参軍に任じられ、長安の平定に貢献しました。その功績により、光禄大夫に昇進し、太原郡公に封ぜられました。ある時、武士彠が李淵に「陛下が長安に入り、天子の位に昇られる夢を見たことがある」と語ったところ、李淵は「おまえは以前、王威の仲間だった。劉弘基らが投獄されるのを防いでくれたからこそ、おまえを官位につけたのだ。今更、私に媚びを売るのか？」と笑って窘めたという逸話が残っています。

その後、武士彠は工部尚書にまで昇進し、応国公に封ぜられました。利州都督や荊州都督を歴任し、貞観9年（635年）に亡くなりました。死後、礼部尚書の位を贈られ、諡を定とされました。

永徽年間、次女の武照（後の武則天）が皇后となると、武士彠は并州都督・司徒の位を追贈され、周国公に追封されました。咸亨年間には、太尉・太子太師の位が加えられ、太原郡王に追封され、功臣の上に列せられました。武照が朝政を掌握するようになると、武士彠は忠孝太皇と追尊され、崇先府が設けられ、属官が置かれました。五代に遡って王位が追贈されるという異例の扱いを受けました。武周が建国されると、東都に武氏七廟が建てられ、帝として追冊されました。しかし、先天年間には、武士彠の帝号は剥奪され、太原郡王に戻され、武氏七廟も廃止されました。

家族

武士彠は、最初の妻である相里氏との間に、武元慶と武元爽の二人の息子をもうけました。その後、楊氏（栄国夫人、楊達の娘）を後妻として迎え、三人の娘を授かりました。長女は賀蘭越石の夫人となり、韓国夫人に封ぜられました。次女の武照は、後に高宗の皇后となり、最終的には自ら帝位に就きました。三女は郭孝慎の夫人となりました。

武士彠には、武士棱、武士譲、武士逸という三人の兄がおり、甥には武懐亮（名は惟良）、武懐道、武懐運（名は弘度）らがいました。

伝記資料

『旧唐書』巻58 列伝第8 「武士彠伝」
『新唐書』巻206 列伝第131 外戚 「武士彠伝」

もう一度検索