武者小路実建

武者小路実建（むしゃのこうじ さねたけ）

武者小路実建は、文化7年（1810年）に生まれ、文久3年（1863年）に亡くなった幕末期の公卿です。父は武者小路公隆、息子には武者小路公香がいます。朝廷に仕える家柄に生まれ、激動の時代にあって重要な役割を果たしました。

生涯と官歴

実建の官界での歩みは、文化10年（1813年）にわずか4歳で従五位下に叙せられたことから始まります。幼くして位階を得た後も着実に昇進を重ね、文化14年（1817年）には従五位上、文政4年（1821年）には正五位下となりました。

その後も順調に昇進を続け、文政7年（1824年）には尾張権介を兼任。文政8年（1825年）には従四位下、文政12年（1829年）には従四位上へと進みました。天保4年（1833年）には正四位下に叙せられ、同年には侍従に任じられています。侍従は天皇の側近くに仕える重要な役職であり、朝廷内での地位が確立されていったことを示しています。

その後も、天保13年（1836年）に左権少将、天保14年（1837年）に但馬権介を兼任するなど、武官や地方官を歴任しました。弘化4年（1847年）には近江介、そして権中将へと昇進。権中将は正四位相当の位階であり、朝廷の中枢に近い地位となりました。

嘉永4年（1851年）には従三位に叙せられ、公卿の列に加わります。そして安政2年（1855年）には正三位に進み、その生涯における最高位に達しました。

以下に、実建の主な官歴を年代順に示します。

文化10年（1813年）：従五位下
文化14年（1817年）：従五位上
文政4年（1821年）：正五位下
文政7年（1824年）：尾張権介
文政8年（1825年）：従四位下
文政12年（1829年）：従四位上
天保4年（1833年）：正四位下、侍従
天保13年（1836年）：左権少将
天保14年（1837年）：但馬権介
弘化4年（1847年）：近江介、権中将
嘉永4年（1851年）：従三位
安政2年（1855年）：正三位

幕末における政治的立場

実建が生きた時代は、外国船の来航が増え、幕府と朝廷の関係が大きく揺れ動く幕末でした。公卿として朝廷に仕える実建は、こうした国家的な危機に直面することになります。

特に安政5年（1858年）、江戸幕府がアメリカとの間で日米修好通商条約を締結しようとした際には、朝廷内部でその是非が激しく議論されました。多くの公卿がこの条約の無勅許調印に反対の姿勢を示し、実建もまた強い反対の立場を取りました。

この反対運動の高まりの中で起こったのが「廷臣八十八卿列参事件」です。これは、安政5年（1858年）4月20日、日米修好通商条約の勅許を得ずに調印を進めようとする幕府に対し、条約反対派の公卿88名が連れ立って内大臣近衛忠煕邸に集まり、朝廷への建白を協議した事件です。これは、当時の朝廷の意思表示としては異例の大規模な行動であり、公卿たちが政治的な主体性を示した出来事として歴史に刻まれています。

武者小路実建は、この廷臣八十八卿列参事件に積極的に参加しました。注目すべきは、彼が自身の嫡男である武者小路公香とともにこの行動に参加している点です。これは、単なる個人的な意見表明にとどまらず、家として、あるいは公卿としての立場を鮮明にしたものと考えられます。

事件そのものは、幕府の大老井伊直弼による安政の大獄によって鎮圧され、多くの公卿や志士が処罰される結果となりましたが、実建らの行動は、幕末の政治過程における朝廷の存在感を高める一因となり、後の尊王攘夷運動にも影響を与えたとされています。

結び

武者小路実建は、公卿として朝廷に仕え、若い頃から着実に昇進を重ねました。そして幕末という激動の時代において、国家の一大事である日米修好通商条約問題に対して明確な反対姿勢を示し、廷臣八十八卿列参事件に参加するなど、その政治的な役割を果たしました。父から子へと続く家系の中で、幕末の困難な情勢下、公卿としての立場を守り、朝廷の意思表明に関与した人物として、その名は歴史に残されています。

もう一度検索