民族民主戦線

民族民主戦線（NDF）

民族民主戦線（National Democratic Front：NDF）は、1976年5月10日にミャンマーの主要な少数民族武装勢力が集まって結成された同盟です。この組織は1990年代半ばまで活動を続け、特に複雑な政治情勢下で長期間維持された少数民族同盟として注目されました。主要な活動拠点は、カレン民族同盟（KNU）の本部が置かれていたマナプロウでした。

結成の背景

NDFの結成に先立ち、中心的な役割を担ったKNUは、ビルマ族の組織との同盟が成功しなかった過去の経験を持っていました。例えば、ウー・ヌ元首相の議会制民主主義党（PDP）と結成した民族統一解放戦線（NULF）は期待された成果を上げられませんでした。このためKNUは、ビルマ族を含まない少数民族主体の新たな同盟を模索するようになります。

当時のミャンマーでは、ネ・ウィン将軍率いる体制下で憲法改正が進められ、1973年の国民投票を経て、1974年には新憲法が制定され、名目上では民政移管が実現していました。一方で、1968年にシャン州北東部に勢力圏を築いたビルマ共産党（CPB）は、少数民族武装勢力間の分裂を招き、各組織の経済的基盤や政治的影響力を脅かしていました。このような状況下で、少数民族勢力は組織体制の立て直しを迫られていました。

こうした動きの中で、1973年5月にKNUの拠点コウムラで、KNU、シャン州進歩党（SSPP）、カヤン新領土党（KNLP）、カレンニー民族進歩党（KNPP）が革命民族同盟（RNA）を結成しました。彼らの目標は「平等と民族自決に基づいた、独立した民族国家から成る真の連邦連合の樹立」でした。RNAは1975年5月には、ネ・ウィン体制打倒をより明確に掲げた連邦民族民主戦線（FNDF）へと発展します。そして、FNDFが組織を拡大する形で、1976年5月10日にNDFが誕生しました。KNU議長のボー・ミャが初代NDF議長に就任し、本部がマナプロウに設置されました。RNAやFNDFの段階ではKNU以外の加盟組織は小規模でしたが、強力なカチン独立機構（KIO）が加わったことで、NDFは組織としての実態と力を備えることになります。

活動と内部の軋轢

NDF結成直後の1976年7月、KIOは中国からの兵器供給を目的として、長年の敵であったCPBと同盟を結び、NDFを一時的に離脱しました。しかしCPBとの同盟でも活路を見いだせなかったKIOは、1983年にNDFへ復帰します。翌1984年10月、マナプロウでの会合において、NDFはビルマ連邦からの分離独立の主張を取り下げ、連邦内での自治権獲得へと方針を転換しました。

1985年には、KIOの要請に応じ、NDF加盟組織の代表団が、多くのゲリラ部隊に護衛されながらタイ・ミャンマー国境地帯からカチン州へと長距離の移動を行いました。同年11月、KIO本部のあるパジャウで会議が開催され、NDFを北部、中部、南部の三つの地域司令部に分割する合意が成立しました。さらに代表団はCPBの本拠地パンカンへ向かい、1986年3月にはNDFとCPBの間で、中央政府に対する共同歩調を取ることで合意が形成されました。これは、長年敵対関係にあった少数民族勢力とCPBが同盟を結ぶという画期的な出来事でしたが、強硬な反共主義者であったボー・ミャはこの合意に強く反対するなど、NDFの内部は一枚岩ではありませんでした。

実際、CPBとの関係においては、KIOやSSPPが同盟を結ぶ一方で、KNUやパオ民族機構（PNO）、KNPPなどはCPBの部隊と衝突を繰り返していました。また、KNUと新モン州党（NMSP）、KIOとSSPPの間には領土問題を抱えていました。さらに、KIO、SSPP、ワ民族機構（WNO）が麻薬取引に関与していたのに対し、KNUは麻薬密売人の処刑を行うなど麻薬に厳しい姿勢を示しており、NDF内部の様々な対立が露呈していました。

1986年11月、CPBとNDFの一部（KIA、SSA、PSLA）の合同部隊が国軍基地を攻撃しましたが、国軍の反撃により退却を余儀なくされました。この戦闘後、国軍はCPB支配地域への攻勢を強め、CPBは中緬国境の重要な拠点を失い、財政的にも大きな打撃を受けました。CPBの弱体化はNDF内での求心力低下につながりました。

1987年には、NDF代表としてKIOのブランセンとKNUのサー・タ・ノルが欧州や日本を訪問し、国際社会への働きかけを行いました。

衰退と崩壊

1988年の8888民主化運動の最中、NDFは民主派勢力との連携を模索しました。当初は過去の経緯から慎重な姿勢でしたが、学生中心の全ビルマ学生民主戦線（ABSDF）の結成を支援し、新たに組織されたチン民族戦線（CNF）の加盟を認めました。そして、民主派勢力と少数民族武装勢力の結集を目指し、1988年11月にはクレルダイでビルマ民主同盟（DAB）が結成されました。KNPPを除くほとんどのNDF加盟組織がDABに参加しました。

しかし、1989年頃から国軍の激しい攻勢が始まり、DAB、NDF、そしてKNUは守勢に回ることを強いられます。そしてNDF内部の結束は決定的に揺らぎ始めます。

1993年4月、DAB及びNDFの主要メンバーであったKIOが政府との停戦交渉を開始したことは、他の加盟組織から猛烈な反発を招きました。KIOはDABとNDFから除名されるに至ります。その後も、NMSPやKNPPなどが相次いで政府との停戦交渉に入りました。そして同年12月末には、中心的存在であったKNUも政府との停戦交渉開始を発表しました。1994年1月には、KNUが連携していたABSDFに武装解除を命じ、幹部を拘束するなど、民主化運動との足並みを乱す行動に出ました。これによりDABとNDFは事実上その機能を停止し、崩壊へと至ったのです。

構成団体

NDFを構成した主な組織は以下の通りです（時期により加盟・脱退あり）。

カレン民族同盟 (KNU)
カレンニー民族進歩党（KNPP）
カヤン新領土党（KNLP）
シャン州進歩党（SSPP）
アラカン解放党 (ALP)
ラフ統一党（LNUP）
パオ解放機構（UPLA）
パラウン州解放党（PSLP）
新モン州党（NMSP）
カチン独立機構（KIO）
ワ民族機構（WNO)
チン民族戦線 (CNF)

（注：一部組織は後継組織に変更されています。）

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