カレンニー民族進歩党

カレンニー民族進歩党（KNPP）

カレンニー民族進歩党（Karenni National Progressive Party、略称：KNPP）は、ミャンマー連邦を構成する最小の州であるカヤー州（通称：カレンニー）を主な活動地域とする政治組織であり、その下部組織としてカレンニー軍（KA）を保有しています。主にカヤー族が中心となって組織されましたが、州内に居住する多様な民族の権利擁護も目標として掲げています。

カヤー州の歴史的背景

カヤー州は、人口およそ26万人程度の小さな州で、カヤー族をはじめカヤン族、カヨー族など多様な民族が暮らしています。「カレンニー」という名称は、かつてイギリスの植民地行政官によって「赤いカレン族」という意味で付けられたものですが、KNPPはこれを州内の全民族を指す総称として捉えています。

歴史的に、カレンニー地域はビルマ族の王朝による支配を受けませんでした。1875年にはイギリスとの間で独立が認められましたが、その具体的な内容は不明瞭で、イギリスが地域の豊富な天然資源、特にタングステンが産出されるモーチ鉱山の独占を狙ったためとも言われています。植民地時代には多くのカレンニー族がキリスト教（バプティスト派、カトリック）に改宗し、第二次世界大戦中にはカチン族やチン族、カレン族といった他のキリスト教徒民族と共にイギリス軍として日本軍と戦いました。

戦後、カレンニー族の間で独立への機運が高まり、1946年に統一カレンニー独立国家評議会（UKISC）が結成されました。UKISCは1947年のパンロン会議への参加を拒否しましたが、最終的に一部の勢力がビルマ連邦への参加を承認し、10年後の連邦離脱権が認められます。これに反発したUKISC指導者のビートゥレは独立を宣言しますが、1948年に政府軍に殺害されます。これを受け、チェボジの首長サオ・シュエに率いられた人々が武装蜂起しました。カレンニー族にとって8月9日は「抵抗の日」、8月17日は「軍の日」として記憶されています。

当初、カレンニー族の反乱勢力はカレン民族同盟（KNU）と共闘していましたが、1951年に政府が州名を「カヤー州」に変更したことは、カレンニー族や州内の民族間の分断を図るものとして大きな反発を招きました。

KNPPの結成と活動

武装蜂起を率いたサオ・シュエの死後、後を継いだトォプロによって1957年7月29日にKNPPおよびその軍事部門であるカレンニー軍（KA）が結成されました。本部をモーチ南方の山中に置いて活動を開始したKNPPは、他の少数民族武装勢力との同盟関係を築きながら活動を展開します。

当初はKNUなどと共に民主民族主義者統一戦線（DNUF）に参加しますが、これは短命に終わります。その後、ビルマ共産党（CPB）などと民族民主統一戦線（NDUF）を結成し、政府との和平交渉にも臨みますが、交渉は決裂。この経験から、KNPPはビルマ族の武装組織との共闘には慎重な姿勢を見せるようになります。

1976年には、ネ・ウィン時代に最も成功した少数民族武装組織の同盟とされる民族民主戦線（NDF）の創設メンバーとなります。

組織の課題と分裂

しかし、KNPPはその活動に限界も抱えていました。モーチ鉱山の利益やバルーチャン（ローピタ）水力発電所の電力が住民に還元されず、貧困にあえぐ住民の不満を背景に、タイ国境での密貿易を資金源として一定の勢力を維持したものの、それ以上の拡大は困難でした。この頃から、組織の目標も独立から連邦制下での自治へと転換が見られます。

1970年代には、近隣のシャン州を拠点とするCPBの影響がカレンニー州にも及び始めます。KNPPの同盟者であったカヤン新領土党（KNLP）がCPB側につき、さらに1977年にはKNPPの左派勢力が離脱してカレンニー民族人民解放戦線（KNPLF）を結成しました。これらの分裂は、イデオロギー対立に加え、KNPPがカヤー族中心、KNPLFがカヤン族中心といった民族対立の側面も指摘されており、組織にとっては大きな打撃となりました。

衰退と度重なる試練

1988年のクーデター後、KNPPは8888民主化運動で逃れてきた学生や若者を支援し、その領土内に全ビルマ学生民主戦線（ABSDF）の事務所設置を認めましたが、ビルマ族組織との共闘には依然として慎重でした。

同時期、政府軍は少数民族武装勢力と民主派勢力の連携を断つため、「四断作戦」と呼ばれる掃討作戦をカレン州、モン州、そしてカレンニー州で展開しました。多くの村が破壊され、多数の住民がタイへ難民として逃れたり、国内避難民となったりしました。また、政府による鉄道建設工事には多くのカレンニー族が強制的に動員され、犠牲者や避難民を出しました。こうした状況下で、住民の間には厭戦気分が高まっていきました。

この頃から、他の少数民族武装勢力が政府との停戦合意を結び始める中、KNPPは孤立を深めます。1995年3月には政府と停戦合意を結びますが、政府軍による住民徴集が始まったため、わずか3ヶ月で破棄に至ります。その後も四断作戦は再開され、さらなる犠牲者を出しました。

また、KNPP内部では度重なる分裂が発生し、分派の一部は政府の支援を受けて新たな組織（カレンニー民族民主党など）を形成しました。2005年には、政府の支援を受けたKNPLFがKNPP本部に攻撃を仕掛け、長期間の戦闘となるなど、組織の弱体化は避けられませんでした。

近年の動向

2009年から2010年にかけて、政府は停戦組織を国境警備隊（BGF）や人民民兵部隊（PMF）に再編・編入する動きを進め、KNPLFを含む他の組織がこれに応じました。これにより、KNPPはカヤー州で活動する唯一の主要な武装組織となります。

長年の盟友であるKNUが2012年に政府と停戦合意したことを受け、KNPPも同年6月19日に政府との停戦に署名しました。これは最初の武装蜂起から64年後のことでした。しかし、2015年の全国停戦合意（NCA）には署名しませんでした。

2021年のクーデター発生後、カヤー州でも大規模な反軍政デモが発生し、KNPPは民主化を求める若者への軍事訓練を開始しました。同年4月には、州内の多様な勢力が結集してカレンニー州諮問評議会（KSCC）を結成し、国民統一政府（NUG）と連携してカレンニー州政府を樹立する方針を打ち出しました。

5月には傘下の武装勢力を統合する形でカレンニー諸民族防衛隊（KNDF）が結成され、KNPP/KAの最高司令官がKNDFの最高司令官も兼任していますが、実質的な主導権は別の人物が握るなど、組織構造に変化が見られます。KNPPは現在、反軍政抵抗運動の一翼を担っており、2024年5月にはNUGや他の少数民族武装勢力と共に代表者が来日し、国際社会への支援を訴える記者会見を行いました。

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