藤原百川

藤原百川（ふじわら の ももかわ）は、奈良時代に活躍した公卿です。藤原式家の祖である藤原宇合の八男として生まれ、幼名は雄田麻呂（おだまろ）と称しました。

生涯

759年、従五位下に叙爵し、官吏としてのキャリアをスタートさせました。その後、智部少輔などの役職を経て、称徳天皇の時代に入ると、左中弁、侍従、右兵衛督、内豎大輔といった要職を歴任し、急速に昇進を重ねました。特に、769年に発生した宇佐八幡宮神託事件では、道鏡への皇位継承を阻止する側として、藤原永手らとともに活動したと伝えられています。

この頃、百川は律令官人としての優れた能力を発揮し、称徳天皇や道鏡からも重用される一方で、神託事件で配流された和気清麻呂のために密かに仕送りを続けるなど、激動する政界で巧みに立ち回りました。

770年、称徳天皇が皇嗣を定めずに崩御すると、右大臣の吉備真備が天武系の文室浄三を推す動きを見せましたが、百川は従兄弟の藤原永手や兄の藤原良継と共謀し、称徳天皇の宣命を偽造し、天智系の白壁王（後の光仁天皇）を擁立する事に成功しました。この一連の動きは、後の歴史書に「百川の暗躍」として語り継がれていますが、詳細については諸説あります。

光仁天皇の即位後、百川は右大弁に任官し、その後、参議に就任します。この頃、名を百川と改めました。光仁天皇からの信頼は非常に厚く、政務全般に関与し、重要な事項は百川なしでは決まらなかったと言われています。

772年、井上内親王が皇后を廃され、その子である他戸親王も廃太子となると、百川は山部親王（後の桓武天皇）を皇太子に推挙します。この背景には、山部親王の才能を見抜いた百川の戦略があったとされています。山部親王は百川に深く信頼を寄せていたと伝えられています。

779年、従三位に叙せられますが、同年7月に48歳で死去。即日、従二位の位階が贈られ、後に右大臣が追贈されました。さらに、淳和天皇の即位に伴い、天皇の外祖父として正一位・太政大臣が追贈されました。

人物像

百川は幼少の頃から才能があり、度量も大きかったと伝えられています。数々の要職を歴任しましたが、常に真面目に職務を遂行しました。実務能力に長けており、兄である良継を補佐する立場として、政治の中枢を支えました。しかし、自ら政権を掌握するタイプではなかったと考えられています。

広島県御調八幡宮に所蔵されている男神座像は、百川をモデルにしたものと伝えられています。この木像は、百川の威厳ある容貌を今に伝えています。御調八幡宮は、百川が支援した和気清麻呂の姉が創建したとされており、百川との深い縁を感じさせます。

官歴

時期不詳：正六位上
759年：従五位下
763年：智部少輔
765年：左中弁
766年：正五位下、山陽道巡察使、侍従内匠頭
767年：右兵衛督、左中弁侍従内匠頭武蔵介（兼任）
768年：武蔵守（兼任）、正五位上、従四位下、中務大輔（兼任）、検校兵庫副将軍（兼任）
769年：内豎大輔（兼任）、河内守（兼任）、従四位上、河内大夫
770年：越前守（兼任）、右大弁、内豎大輔内匠頭右兵衛督（兼任）、正四位下
771年：大宰帥、右大弁内豎大輔右兵衛督越前守（兼任）、参議
774年：正四位上、従三位
777年：右兵衛督、式部卿
778年：中衛大将
779年：卒去（従三位式部卿兼中衛大将）、贈従二位
783年：贈右大臣
823年：贈太政大臣正一位

系譜

父：藤原宇合
母：久米若女
妻：藤原諸姉
長女：藤原旅子（桓武天皇夫人、淳和天皇母）
女子：藤原帯子（平城天皇妃）
妻：伊勢大津の娘
長男：藤原緒嗣
三男：藤原継業
女子：藤原産子（光仁天皇夫人、淳和天皇義母）

参考文献

瀧浪貞子「藤原永手と藤原百川」『日本古代宮廷社会の研究』思文閣出版、1991年
加納重文「藤原百川」『女子大国文』第111号、京都女子大学・京都女子大学短期大学部、1992年
木本好信「藤原百川」『藤原式家官人の考察』高科書店、1998年
木本好信『藤原四子 : 国家を鎮安す』ミネルヴァ書房〈ミネルヴァ日本評伝選〉、2013年
宇治谷孟『続日本紀 （下）』講談社〈講談社学術文庫〉、1995年
『公卿補任 第一篇』吉川弘文館、1982年
『尊卑分脈 第二篇』吉川弘文館、1987年

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